第四十一話:その時は、むこうから意図せずやってくる
「一旦ここで休憩しよう。各自、ポーションで傷を癒しておいてくれ」
坑道を進んできて開けた空間があったことを記憶していたので、そこまで戻ってきた。
立派な鉱山機械は無いようだが、トロッコやら錆びたドリルやらが放り出されてある。
今は人の気配は無い。
人間が寄り付かなくなって以降はこうしてモンスターが潜む廃墟と化してしまっているようだが、当時はそれなりに活気があったのだろう。
今は冒険者がモンスターを狩るついでに、素材収集したりしている。
しかし相変わらず視界が悪い。
前方に手を伸ばしてみる。
20m先ぐらいならはっきり見えるが、それ以上だとぼんやりする。
薄暗い。
日が当たらないのでひんやりとしている。
こういう状況にもずっと一人でいた俺は慣れていたはずなのだが、どこか不安になる。これがパーティというものなのだろう。
唇を舐める。
鉄と錆臭い味がした。
今気づいたが、酸素も十分に吸っている感じがしない。
空気が濁っているようだ。
「ふぇー、流石にちょっと疲れましたあー」
「ほんと…、ちょっと休む…」
ドサッとシュカが座り込む。
だいぶ回復してきたようだが、先の戦闘は少しこたえたようだ。
ミラにも前線で戦闘を任せていたので、疲労が溜まっているようだ。
「ミラ。ありがとう。見張りは俺がやるから、少し休むと良い」
「ん、わかった。そうさせてもらう…」
存外素直に応じた。
見かけによらず、弱さを見せないところがあるが、やはり二人して結構参っているようだ。
さて、俺はここいらで状況整理をしないといけないな。
この炭鉱の全体像はまだ把握できていない。
どのようなモンスターが潜んでいるのかも良く分かっていない。現在相対したモンスターはスケルトン、ゾンビ。アンデッドの類が主だ。
低位なモンスターばかりなので、それほど深いところまでは来ていないことが分かる。
もっと深いところに行けば高価で取引できそうな素材も手に入るだろうが、ゾンビとの戦闘ぐらいで足が竦む新人がいるのだ。慎重にならないといけない。
それに今回の目的は素材集めなどではなく、あくまで新人を育成し戦えるようにすること。
パーティとして遊びではない戦闘を経験すること。
戦闘を経験させるという当面の目的は現在進行形で遂行している。
どの程度まで耐えられるだろうか。
初戦であまり新人を痛めつけたら訴えられるだろうか。
まあご存知の通り、ノラ街なぞに高等な法律などの法規は無い。
あるのは生き残るやつが法みたいな古臭い慣習のようなものだ。
実際、冒険者の一生なんて短い。
昨日一緒に戦っていた仲間がもう今日は隣にいないなんてこともザラ。
博打とは違うけど、そこまでしてやるライスワークか、なんて思う。
他にやることも無いからやっている、なんて軽い理由も多くある。
冒険者など真面目にやってやれないというのが本音だ。
鞘から剣を抜く。
刃に目を向けると、先ほど切ったゾンビの体液がこびりついている。
直に触る訳にもいかないから、手探りで落ちていたボロ切れで刃先を拭く。
相変わらず、拙い装備だ。
だましだまし使ってきたが、そろそろ限界かな。命が懸かってるんだ、装備にケチケチしたくはないが。
10分ぐらい経っただろうか。思案し、そろそろこの鉱山から離れることを決断した。
カッコいい生き方なんてしたくない。
もっと鉱山の奥に進んで、強敵が現れました、みたいなフラグをわざわざ立てることも無い。
そんな強敵を前に美女を救いましたなんてある訳もない。
あるのは、ボロい装備と不慣れなパーティ。無理をしない。これに限る。
「えええ、もう戻るんですかー!ラトさんー。わたしまだ戦えます!」
「無理しないの、シュカ。さっき、あんなに泣いてたのに」
「な、泣いてなんかいないです!!ちょっと、びっくりしただけですよ…!」
はあ。俺はため息をつく。
「まあ、まだまだ連携もうまくいってないし、この奥はどんなモンスターが現れるのか俺にも正直分からない。そんな危険を冒す必要はないんじゃないか?」
まあそうですけど、とシュカは下を向き、ボソッとつぶやく。
ミラも頷く。
それでいい。
必ず戦わなくてはいけない日は、勝手にむこうからやってくる。
その一瞬に力を込めるんだ。別に目立とうとしなくてもいい。
そんな瞬間は意図せずにやってくる。
だからこそ、こうして命がけで戦って生きてるんだ。
鉱山の入口へと向かって歩き出す。
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