第56話 真実を突く 1

 ――更に数日が経過した。



 先日のことがあってから、暮斗はずっと『あること』を胸に秘め、それをあまねにどう話すかを考えていた。



 先程あまねからメールが来ていたが、放課後遊びに来るそうだった。



 きっと話すのならその時なのだろう。これは絶対に話さなければならないことなのだ。



 ――覚悟を決めろ。



 あまねは友達に嫌われるのを覚悟で怪人に向かっていった。



 今度は自分が嫌われるのを覚悟で向き合う時なのだ。



 ・



「……おっせーな」



 暮斗は時計を見て、そろそろ放課後かと推測した。



 高校に通わなくなって長らく経つが、過去の記憶を掘り返してだいたいそうだろうと推測づける。



 そして、ふと懐かしくなる。



 もう何年前のことなのだろうか? と。



 だが懐かしんだところで印象に強く残る出来事は特になかった。ゆえに振り返りも一瞬で終わり、脱線することなくすぐに目の前の問題へと戻ってくるのだった。



 高校には、別に思い出などない。



 強く記憶に残っているとしたら、その後のことである。



 もっとも、問題はその『後』のことに起因しているのだが。



 考えれば考えるほど心が苦しい。



 ここまでくると、早く話して楽になってしまいたかった。



 まだかまだか、とあまねが早く来るのを心待ちにした。時計の針の進む一秒の音が十分にすら感じられ、時間の経過が遅く感じられた。



 ――そして更に十分後、その時はようやくやってくる。



 不意に部屋の中に呼び鈴が鳴り響いた。



 このタイミングはあまねで間違いない。



 暮斗は早足で玄関へ向かい、力任せに扉を開いた。



「あまねか!」



「うう…………ぐすっ……」



 ――そこにいたのはあまねで間違いがなかった。



 だが何故か泣いている。子供のように泣きじゃくっていた。



「……あまね?」



「暮斗ぉ……。うっ……うっ…………」



 そのあまりにマヌケな顔に、今まで張っていた気が一気に緩んだ。



 まったく、予定通りにいかない予想外な女である。



「ま、まぁとりあえず入れよ。話はそれからだ。な?」



「うん……ひっ……」



 暮斗は子供のように泣き止まないあまねの背を優しく押し、家内に招き入れた。



 ここは幼稚園かとツッコミたくなるが、ここは我慢である。



 とりあえずあまねをソファに座らせ、砂糖を大量に注ぎ込んだコーヒーを出してやると、泣きながらコーヒーを口にした。



 泣くか飲むかどちらにしていただきたい。



 しかしそれでようやく落ち着いたのか、カップを下ろす頃にはべそをかきながらも涙は止まっていた。



「……で、どうしたんだよ。なにがあったらそんな子供みたいに泣けるんだよ」



「そうよ! 聞いてよ暮斗!」



 あまねは突如いつもの元気を取り戻し、暮斗に迫った。



 急に元に戻り、迫ってきたものだから少し気圧される。

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