第26話 悪は絶対許さないマンを探して 4
「……あれ?」
「ふえぇ……酷いですよ暮斗さん……。言ってくれたら自分の『解く』のに……。急にされるとこんなことになるんですよぅ……」
「悪いな、見ててこれが一番面白いんだ」
「⁉︎ ⁉︎」
あまねは今なにが起きているか全く分からず、ただ目をパチクリさせていた。
「ど、どういうことよこれ! 説明しなさいよ!」
「あまねちゃん……私です……あの……マイティ・ガイ……です」
「は? なに言ってんのよ!」
「あまね、落ち着け。順を追って説明してやる。こいつはマイティ・ガイだ」
「なんの説明にもなってないわよ! あの強そうな人が急に女の子に変わるわけないでしょ!」
「ふっ、それが変わるんだよな。なぁ?
「は、はい。そうなんです……すみません」
舞と呼ばれた女はおどおどとしつつも暮斗の言葉を肯定した。
「……本当にどういうことよ……意味不明すぎて泣きたくなってきたわ」
「よし、そろそろまともに説明してやろう。舞」
暮斗は指をパチンと鳴らすと、それに呼応して舞はレゾナンスを発動させた。同時に布をかぶり、姿を隠した。
刹那、再び姿を現したその姿は、先ほどまで見ていた屈強なマイティ・ガイのものへと戻っていた。
「HAHAHA! 驚いたかあまねちゃん!」
「戻れ」
「よしきた」
短く返事し、指パッチンをするとまた布をかぶり、もう一度姿を表すとマイティ・ガイは舞へと変わっていた。
「……レゾナンス?」
その摩訶不思議な現象を説明できるものなど一つしかない。レゾナンスである。
「正解だ。舞はレゾナンスを発動させると、戦闘向きの姿、ヒーローのマイティ・ガイへと変わるんだ。ちなみに、二重人格だ」
「……はああああああああっ⁉︎ じゃあその女の子がマイティ・ガイの本体ってわけ⁉︎」
「は、はい……。私は舞で、彼はガイ……。以後、お見知り頂ければ……」
あまねは開いた口が塞がらなかった。
マイティ・ガイのパワフルなイメージとは何もかもが正反対の、気弱な女の子が正体だと言われてしまえば誰だってそうなるだろう。
「……そんなレゾナンスがあるのね……」
「かなりレアだ。レゾナンスに引っ張られて人格ごと変わるってのはなかなかないぜ?」
「……レゾナンスの名前は『マイティモード』です……。使うとガイの体に変わります」
そう言って舞はもう一度マイティモードを使用しようとしたが、必死にそれを制止した。
先ほど見たので、もう混乱させられるのはこりごりなのである。
「そういうこった。普段はおとなしい舞の姿、戦うときは戦闘向きの体に変わって、人格もガイのものになるわけだな」
「へぇー……そんなこともあるもんなのね……」
あまねは物珍しそうに舞に近づき、ペタペタと髪やら肌やらを触った。
「ひゃ……っ、や、やめてくださいぃ……」
更紗は内気な性格らしく、顔を赤らめて手をはねのけようとするも、押しの強いあまねから逃れることは出来ず、なすすべなくされるがままになっていた。
「可愛い……」
ほう、とあまねの頬が紅潮する。
あまねにそういう方向の趣味はないが、そんな些細なものを軽く飛び越えていってしまうほどの抗えない魅力があった。
「は、恥ずかしいです……」
「ほわあああああー! なによこれえええー!」
愛おしさが臨界点を突破したあまねは、奇声をあげて更に舞を可愛がった。やがてエスカレートしきり、その手はあろうことから胸へと伸びつつある。
流石に止めねばまずいと判断した暮斗は、咄嗟に舞のマイティモードを発動させた。
「うお゛っ」
舞は女子にあるまじき最悪な野太い声を出すと、一瞬発光したのちガイの体へとコンバートされた。
つまり、あまねが抱いているのはガイの非常に逞しい胸筋。
「…………」
「照れるぜベイビー☆」
あまねはガイを即座に離し、強い視線でキッと睨んだ。その視線には、この世の全てを憎むかのような怨念がこもっていた。
「そ、そんなに睨むなよ。すぐ戻るから」
そう言うとガイは自発的にマイティモードを解除した。途端、あまねに笑顔が戻る。
「舞ちゃん! 会いたかったわ!」
「はっ、はひぃ! わ、私も会いたかったです」
もうペースは完全にあまねのものだった。苦笑いをしつつも、あの手のこの手の愛撫を受け入れていた。
この意味不明な時間は、しばらく終わらなかった。暮斗はため息をつく。
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