第24話 悪は絶対許さないマンを探して 2

「……あー、俺個人としては、奴らのような迷惑な連中が幅を利かすよりは、暮斗のような考えを持つ奴の方が増えてくれた方が嬉しい。だからな、あまねちゃん。俺も若い子に復讐だなんて言われると悲しくなっちまうんだよ」



「……そうは言ってもね、体が勝手に動くのよ。あたしの中のあたしがそうしろってうるさいのよ。あたしだってどうすりゃいいのかさっぱりだわ」



「んー……。どうしたもんかねぇ」



 マイティ・ガイは気まずそうに頭をかいた。その態度の裏には何やらありそうだったが、それを知る由はあまねにはなかった。それに、考える余裕など今のあまねにはない。



「と、とにかく、今そんな難しい話しないでよ。少しはゆっくり考えさせなさいよ」



 考えるのが苦手なあまねは頭から湯気を出して、もうオーバーフローしそうになっていた。



 自身の感情と、目の前の男と席を外している男の言葉がぐるぐると渦巻いて、奔流に流されそうになる。



「存分に考えるといいさ。あまねちゃんはまだまだ若いんだ。考える時間なんていっぱいあるだろ?」



「……そうね」



「よく考えるんだぜ? 選択っていうのは、何かを選んで何かを捨てるということだ。あまねちゃんにとって何が大切なのか、ゆっくり考えるんだ」



「……わかったわ。アドバイスありがとね」



 とはいえ、口で返事はしたがあまね自身、何が大切で何がいらないのか、なにもわかっていなかった。



 そして、自身の目的と天秤にかけて釣り合うような、捨てるようなものがあるのかすら分からない。



 その場で押し黙って考えに耽るも、すっぽりと抜け落ちたようになにも浮かばず、思考を断念した。



「思いつかないか?」



「……思いつかないわね」



「HAHAHA。まぁゆっくり考えるといいさ。どうせ悪は絶対許さないマンはなかなか見つからない。その時までに答えを出せばいい」



 マイティ・ガイはあまねの頭にぽん、と頭を置いた。



 昨今流行りの、性根の悪いものならセクハラとでもとられそうな行動だったが、彼の兄貴肌な性分がそんな感情を産ませなかった。



 正直、暮斗より頼りになりそうである。



 マイティ・ガイに対して妙な信頼が生まれたところで、彼は室外にいる暮斗を呼び戻した。ずっと立っていたのか、体をゴキゴキ鳴らしながら帰ってくる。



「よう、なんかいい情報は得られたか?」



 そう言われたところで、マイティ・ガイはあまねに目配せした。先ほど言っていた、暮斗に悪は絶対許さないマンのことは話さないという約束である。



 いくらあまねの頭が悪くとも、ついさっきのことは忘れるはずもなかった。ウインクで返すと、軽くしらばっくれる。



「まぁぼちぼちね。結局見つからなかったけど」



「そうかー。つーか、お前の探してるヒーローって誰なんだよ。そういや俺聞いてないぞ」



「えっ⁉︎ そ、それは……そう! 名前すら分からなかったのよねー! 残念だわ!」



「こいつでも分からなかったか。また振り出しだな」



「ま、まぁなにも分からないよりかはマシよ。色々貴重な話も聞けたわ」



 少なくとも、価値観が一つ増えたのは事実だった。



 取捨選択ということは、考えてすらいなかったのだから。



「それは良かったな。変な奴だけど、なんだかんだで人生経験は豊富だからな」



 あまねはそこで一つ引っかかった。先ほどから暮斗はマイティ・ガイのことを変人呼ばわりしているが、多少テンションが高いきらいがあるだけで、むしろおかしいのは暮斗の方だった。



 その疑問を解消するため、じとりとした目を作って暮斗に問いかける。

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