第23話 悪は絶対許さないマンを探して 1

 やがてしばしの時が経過したのち、マイティ・ガイはあまねの知っている理解度を把握してからぽつぽつと語り始めた。



 その口調はどこか穏やかで、ヒーロー一位を語るというよりも古い友を語るような、そんな空気すら感じられた。



「悪は絶対許さないマンは、ご存知の通りヒーローの中でも極めて強力な力を持ったヒーローだ。怪人達からもかなり警戒されているけど、ヒーロー協会内部でもそれは変わらない。なんたって、奴の気分次第で戦局が変わることだってあるんだからな。あいつを中心に全ての歯車が動いているって言っても過言じゃない」



「たった一人……なのよね?」



「たった一人だ。悪は絶対許さないマンがヒーローになったのは四年前。認定試験を受けた時点で奴の能力は他とは比べものにならないくらい特出してた。始めは力は強いが命令を聞かない問題児として扱われてたけど、功績を挙げていくうちに誰も文句が言えなくなっていってな。命令違反の大きさより、功績の方がでかくなっていった」



 あまねは記憶の中の悪は絶対許さないマンの戦いぶりと、マイティ・ガイから貰った情報を合わせてみたが、その言葉とぴったり合致するような悪は絶対許さないマンの暴れように拍車がかかるだけだった。



 彼のあまりの理不尽な強さに邪智暴虐なイメージがどんどん強固になっていく。



「はっきり言って、奴は最強だ。あいつはこれまでのどのヒーローをも上回る。その戦いぶりは……もはや美しい」



 あまねはごくりと唾を飲み込んだ。美しいとまで形容された圧倒的な暴力は、想像に難くない。



「だから、悪は絶対許さないマンに魅せられたヒーローは多い。そのレベルは崇拝にまで至ってて、協会内部にもタチが悪い『信者』が数多くいるんだ。俺たちヒーローにも明確な正義とルールがある。それを無視して、悪は絶対許さないマンに倣って怪人を徹底的に殲滅させるというのが信者達だ。そうだな……最近だと、イビル・スレイヤーというヒーローが徐々に台頭してきたな」



「あっ、そのヒーロー知ってるわよ! この前あたしを襲ってきた奴!」



「その時の様子はどうだった?」



「そうね……あたしを倒すために周りのことなんか気にせずレゾナンスを使ってたわ。あれはどうかと思うわよ」



「そうなんだよなぁ……。俺としてもかなり問題に思ってるんだが、なにぶん数が多くてな。ヒーローの品位を落とすような真似をするなと言っても、あいつらが信奉しているのは序列一位だ。五位の俺の言うことなんて聞きやしない。まったく困ったもんだぜ」



 マイティ・ガイは肩を竦めた。どうやらほとほと困っているらしい。



「何が悪いって、信者達は悪は絶対許さないマンが集めたわけじゃないんだ。勝手に集まって、勝手に解釈して好き放題してるだけだ。まったく、あいつの気持ちになってみろってんだ」



「……仲良いの?」



「あっ、いや……べ、別にそんなことはないんだぜ! 俺は五位であいつは一位。仲良くなんてない」



 途端にしどろもどろになるマイティ・ガイに不信感を抱くも、さして興味がないので追及はしなかった。



 そしてばつが悪くなったのか、聞いていないことまでぽろぽろ漏らす。

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