第72話 ミッドサマーデザートスープとムースサンドパンケーキ
まかないごはんのビールスープは、滋味溢れていますね、と準備を手伝ってくれている人たちに好評だった。
フェザリオンとティアリオンの二人には、バターミルクスープを作った。
バターミルクスープは、発酵乳に卵黄やハチミツを入れて作る甘酸っぱいスープだ。塩味のビスケットが、クルトン代わりに浮かんでいるのも楽しい。
「さて、そろそろ試作開始、と」
夏至祭のメニューでオリオンさんから了解をもらったフルーツスープとパンケーキの試作に取りかかることにする。
その前に、招待状にもう一度目を通した。
―― 夏至祭りのお知らせ。
焚火の夕べ。
スープは甘く、ケーキは甘からず。
今宵お会いできることを…… ――
「スープは甘く、ケーキは甘からず、か」
つぶやくと私は、前にティアリオンの本棚で見かけた背表紙の文字を思い出した。
『季節のデザートスープ』
確か、そう印字されていた。
「季節の、ってことは、サマーシーズン、夏至祭にちなんだスープもきっと載ってるよね」
ティアリオンに本のタイトルを告げると、彼女は棚から一冊抜き出すと持ってきてくれた。
表紙は、春、夏、秋、冬、それぞれの季節をイメージしたスープの写真で飾られている。
つい、順番に読んでしまいそうになったが、時間がないことを思い出し、目次の夏の章をまず眺めた。
「フレンチはビシソワーズ、スペインからはガスパチョ、乳製品を使うデンマークはバターミルクスープ、日本食からは冷汁ね、シャルティ・バルシチャイ? は聞いたことがないな、あ、でも、このピンク色のスープは見たことある、リトアニアのなんだ。冷製ボルシチね、なるほど、ビーツとケフィアで作るんだ、健康に良さそうなスープ」
そうして目次を辿っていくと、デザートスープという文字が目に入ってきた。
ぺージ数を確認して、開くと、ベリーカラーのきれいなスープが現れた。
作り方を見ると、ロシアのキセーリに似ているとわかった。
デンプンでとろみをつけるベリージューススープ。
「ベリーの色味と酸味が夏の味って感じ」
スープはこれで決まり。
ケーキは、甘からずのパンケーキにしよう。
薄く焼いて、サーモンムース、ハーブクリームチーズ、レバーパテと、順番にはさんで重ねていこう。
最後にサワークリームを塗って、ディルとチャイブとチャイブの花で飾りつけよう。
目を閉じて、頭の中でひと通り作って、盛りつけまでやってみた。
「だいじょうぶ。これから日没まで試作、そして、宵闇の本番に出来立てをサーブ。さあ、はじめよう」
私は、目を開けると、調理にとりかかった。
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