第60話 グミ、ジュレ、シロップ、グッドラック
その後、ツキヨノさんから届いたのは、白地にランダムにパステルカラーの水玉を散らした縮緬の風呂敷包み。
「お日さまがはじいた雨粒」
「はじけて舞い散った虹」
フェザリオンとティアリオンの4本の手が踊るように交差してふろしき包みの結び目をほどいた。
中には、正方形の白い和紙の箱。
熨斗の代わりに手漉き和紙がかけられて、虹色グラデーションの紙縒りの蝶々がとまっている。
「ちょうちょは花を求めて飛んでいく」
「ちょうちょは蜜を吸って飛んでいく」
フェザリオンは紙縒りの蝶々を高く掲げて、カウンターにかわいらしく揺れているカモミールの花にとまらせようとした。
ティアリオンは掛け紙をひらひらさせてそれを遮って、蝶々を和紙にとまらせようとした。
「ちょうちょを包んでプレゼント、文をしたため一筆献上」
「一筆献上? なーにそれ、へーんなの」
「へーんかな、リズミカルだと思うけど」
「リズミカルだけど、へーんな感じ」
掛け紙をひらひらさせて逃げ回るフェザリオン。
紙縒りの蝶々を持ったまま追いかけ回すティアリオン。
「カフェの中では走らない」
私が声を上げると、二人はぴたっと動きを止めた。
「ごめんなさい、ネズさん」
「ごめんなさい、ネズさん」
こういう時の息はぴったりだ。
「ずいぶんはしゃいでるみたいだけど」
頬を蒸気させた二人は、肩をすくめて、それから再び声を揃えた。
「箱の中からステキな気配がする」
「箱の中からキレイなメロディが聞こえてくる」
私は、二人と箱を交互に見た。
「気配? メロディ? 」
びっくり箱かオルゴール仕様にでもなっているのだろうか。
オリオンさんからの差し入れは、イマジネーションをたっぷり広げる滋味に溢れていた。
ツキヨノさんの満ち足りたうれしそうな顔が思い浮ぶ。
「ふたをとるのは、ネズさん、どうぞ」
「ふたをとるのは、ネズさん、どうぞ」
二人に勧められて、私は、両手をふたに添えて持ち上げた。
和紙の箱のふたをとった瞬間、しゃららん、と、音符があふれ出した……ように見えた。
「ふわぁ」
「ふわぁ」
フェザリオンとティアリオンが、夢見心地の声をあげた。
「きれい」
「きれいですね」
オリオンさんが、私の隣りに立っていた。
箱の中には、透明感のあるグミのようなゼリーのようなお菓子が、詰められていた。
お菓子はゼラチンか寒天で作られているようで、小ぶりのペーパーカップの中でぷるぷる震えている。
ゼリーのようなブラマンジェのような見たことのない姿の透明だったり半透明だったりしているグミ。
ココナッツウォーターにミントジュレ、甘味は水あめシロップ。
レモングラスウォーターにストロベリージュレ、甘味はシュガーシロップ。
ハイビスカスウォーターにローズヒップジュレ、甘味はハニーシロップ。
アップルティーウォーターにレーズンジュレ、甘味はシナモンシュガーシロップ。
抹茶ウォーターに甘納豆の練りあん、甘味は和三盆シロップ。
添えられたカードには、手書きのジュレ風グミの説明といっしょに、ツキヨノさんからのメッセージ。
「ごちそうさまでした
差し入れのお礼です
みなさんでめしあがってください
春フェスのお菓子できました
ありがとうございました」
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