第44話 ワールドワイド ディッシュ キャンドルピラミッド パーティー

 カフェの中へもどると、オリオンさんがカプチーノをいれてくれた。


「おつかれさま。この先は、おまかせください」

「あ、ありがとうございます。タルトの生地とフィリングの記録、楽しかったです」


 私はノートをオリオンさんに手渡した。

 オリオンさんは受け取ったノートにさっと目を通すと、フェザリオンとティアリオンに声をかけた。


「ここからは、君たちの仕事だよ」

「はい。メニューのご紹介にとりかかります」

「はい。黒板と白墨とはこちらにご用意してあります」


 二人は顔を見合わせて、いたずらっぽそうに笑い合った。

 それから両手を頭の上にあげて、うやうやしげにノートを受け取った。


「こちらも、よろしければ」


 そう言ってオリオンさんがサーブしてくれたのは、マカロンのような小さな焼菓子。口にいれると、さくっ、ぽわっ、とした独特の食感、そして、アーモンドの香ばしさに、木苺のジャムがぎゅっ、と溢れて甘酸っぱい。


「ほう、アマレッティだな。マカロンの原型と言われているイタリアのお菓子だ。オリオンさん、私にはカフェ・コレットを頼めるかな」


 スエナガさんが言った。


「はい。カフェ・コレットですね」

「グラッパを多めにしてくれるかな。アマレッティをつまみに食前酒代わりだよ」


 スエナガさんはそう言うと、カウンターの私の隣りに腰かけた。


「さあ、きみは先に飲んでいたまえ。カプチーノの香りがとばないうちに」


 スエナガさんに促されて、私は、ネコヤヤさんが出してくれたリトルプレス『millefeuille』の号外リーフレットを手に、カプチーノの泡に鼻を埋めると、ほっと息をついた。


『millefeuille』号外


 CONTENTS


 特集    セイボリータルト

 exhibition  ワールドワイド ディッシュ キャンドルピラミッド パーティー

 プレゼント クリスマスの集い御招待



「オリオンさん、このリーフレットは、どこかに配ったのですか」

「カフェに置く用にと、ネコヤヤさんからいただいたので、そのようにしました」

「きれいなリーフレットですね。花びらが漉き込んであるのかな」

「ペーパー自体も、ネコヤヤさんのお手製だそうです」


 私はペーパーの手ざわりも楽しみつつ、簡潔で美しい言葉で書かれている文章に目を通した。


「ワールドワイド ディッシュ キャンドルピラミッド パーティーか。なかなかに仰々しいものだが、色どりも香りも味も、ふむ、ワールドワイドの名に恥じぬようだな」


 スエナガさんは、カフェ・コレットをくっと飲むと言った。


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