第34話 ペルー風 & ペルシャ風ライスタルト
「これは、そうだな、ライスはライスでも、雑穀と呼ばれるものだな」
スエナガさん、別のタルトに顔を近づけて言った。
「わかるんですか」
「かなり鮮やかなイエロー。サフランライスにしては、粒がくだいた米のように見える、これはキヌアだ。アンデスの高地で栽培されている穀物だ。合わせてあるのは、タコ。角切りにしてマリネ液によく漬け込んであるように見える」
スエナガさんは話しながら、カウンターの方へ歩いて行って。
そして、カウンターの台に置かれた籐製のかごから、レモンを手にとり鼻に近付けて匂いをかいだ。
「マリネ液はレモン汁だな、皮の黄、それから、赤みはパプリカではなく赤唐辛子、ペルーで言うところのアヒ・リモのみじん切り、グリーンはコリアンダー、となると、調理法はセビーチェ。ペルー風タコのマリネ、セビーチェと合わせたキヌアのタルト。香ばしいキヌアのぷちぷちした食感と、新鮮な柑橘やハーブやスパイスで味わうセビーチェ、タルトの生地にはトウモロコシの粉を使っているようだな」
見事に言い当てられてしまい、私は、目をしばたたいた。
「そうです。そのタルトは、ペルー風セビーチェタルトです。マリネ液がタルトに沁み込まないように、キヌアでワンクッション置きました」
「なるほど。タルトにマリネ液が沁みても悪くはないが、沁みすぎて生地がくったりすると、食べにくいし美味しさも半減と言えよう」
スエナガさんはうなずきながら、次のタルトに目を移した。
「これは、ヒヨコ豆にソラ豆にレンズ豆、と、インディカ米、スパイスブラウンに染まっているな。ということは、シナモン、ターメリック、クミンシード、ペッパー、香ばしそうなのはアーモンドのスライス、レーズンとドライクランベリーで自然な甘みも出るようにしてるな、米の炊き加減は、ふわっと軽めの炊き加減で豆と合わせたサラダ風。タルトの生地には香ばしさを際立たせるポピーシード。飾りのハーブはミントとチャービル、ディルにコリアンダー。フレッシュハーブをたっぷり取り合わせている。これは、ペルシャ風だな」
スエナガさんは、今度は、テーブルフラワーから、ミントを1本抜くと、香りを大きく吸い込んだ。
すっとした清涼感が心地よかったのか、二度、三度と、香りを吸い込んでいる。
「そちらは、ペルシャ風アジルサブジポロタルトです」
「アジル、ペルシャ語でミックスナッツのことだな。サブジは、野菜全般を指すが、ハーブのことも含まれる。ポロというのは、確か、このタルトに入っているような炊き加減のライスのことだったな」
こうして、スエナガさんは、次々とタルトのフィリングを言い当てていった。
全て説明し終える頃には、セイボリータルトで、ほぼ世界一周となった。
「食べるのが楽しみですね」
興味深そうに話を聞いていたフルモリ青年が言った。
「お客さまがお揃いになるまで、お待ちください」
「お客さまがお揃いになるまで、もう少しです」
フェザリオンとティアリオンに制止されて、あやうくつまみ食いしそうになるのを、なんとか押しとどめた。
「え、と、あとゲストは、ネコヤヤさん? 」
「花屋のdaysさんと、砂糖菓子の店 ツキ・ホシ・アメさんがいらっしゃいます」
私の問いに、オリオンさんが答えた。
「お一人ずつですか」
「daysさんは、店長と店員さんの二人、ツキ・ホシ・アメさんは、お一人です。もしかしたら、臨時で店頭に立ってもらう方が同行されるかもとのことです」
「この辺りの方々ですね」
「はい。お世話になっているみなさんに、食事とおしゃべりを楽しんでいただければと思っています」
オリオンさんの言葉はあたたかくやわらかく、心からのものであるのが伝わってきた。
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