第32話 キャンドルピラミッドオードブル
カフェハーバルスターにクリスマスピラミッドがお目見えしたのは、クリスマスイブだった。
安定感のあるがっしりした長テーブルが室内の中央に置かれ、そのまん中にまず一台据えられた。
クリスマスピラミッドは、全部で三台。
まん中のものより少し背の低いものが、両脇に少し離して置かれた。
まん中のキャンドルスタンドに、蜜蝋のキャンドルが灯された。
灯し終わると同時に、ぶぅ、んと低い音が鳴って、ピラミッドがゆっくり回りだした。
動力としての風力の確保はカフェの中では難しいかもしれないとのことで、電池で動く仕組みにしてあるのだという。
「わあ、動くんですね」
「スエナガさんが作ってくださったんですよ」
「すごい、絵だけじゃなくてDIYも得意なんですね」
「職人の域です」
火を灯したのは1台だけで、キャンドルが倒れないように、ガラスの円筒がかぶせられてある。
後の2台には、アイシングをまとったプチフールと、彩り豊かなセイボリータルトが小皿ごとキャンドルスタンドに置かれて、それぞれに透明なフードカバーがかぶせられている。
本来のクリスマスピラミッドの各層の台の中心部には、くるみ割人形のような木製の人形たちが設えられているが、今日は、花屋 daysからの料理の妨げにならない香りの花のアレンジメントが飾られ、砂糖菓子の店 ツキ・ホシ・アメからのアーモンド型のドラジェをリボンで包んでつないだミニリースが、アレンジメントの上にひもの長さもリズミカルに吊り下げられている。
リトルプレス出版の黄昏社のネコヤヤさんが、号外リーフレットを出してくれて、そこには、今日の集いの告知と、セイボリータルトについてが掲載されている。
バランスを崩すことなく、工作溶剤の臭いもせず、クリスマスピラミッドは、静かに回っている。
「本当に、材料をぴったり同じサイズにカットして組み立てないと、ですよね」
「釘や接着剤は使われていません、食卓に置くものだからと、木組みなのです」
「木組み、って、重要文化財級のような響き」
「スエナガさんは、キャンドルピラミッド、と言ってましたよ」
「そっか、そう呼べば、クリスマス以外でも使える」
すっかり感心していると、カフェのドアが開いた。
最初のお客さんは、画家にしてクラフトマンのスエナガさんだった。
スエナガさんは、つつがなくピラミッドが回転しているのを見ると、満足そうにうなづいた。
「ふむ。私の計算に間違いはなかったな。間違うはずはないが、このような動力を必要とするものは、あまり作ったことがなかったのでな。人形劇団のからくり背景を作ったことがあるくらいでな」
「人形劇団にいたんですか」
「旅をしていた時に、宿を借りたのだよ。しばらく滞在して、スケッチをして、ポスターを描いて宿賃にした」
スエナガさんは言いながら、セイボリータルトののっているピラミッドに近寄ると、一つずつ指差しながら、フィリングを言い当てるゲームを勝手に始めた。
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