金原ひとみ『オートフィクション』

金原ひとみの初期作品の率先して狂気へと進んで行く姿勢、そして本人は笑わせようと思っているんだろうけど聞いた(読んだ)ほうからしたら「笑えないよ!」とツッコんでしまう、そんな命がけのジョークは惚れ惚れします。


語り口の面白さ。好きな男に支配されたくてたまらない、好きな男が他の女を見ただけで妄想は発動され、正気の世界が歪んでいく。そもそも正気とはいったいどんなことをいうのか。夏の100冊に入っている『蛇にピアス』は青春のヒリヒリした部分を抜き取った「読書感想文として提出されたら正直困る」名作ですが、金原ひとみは作品を重ねるたびに狂気の深い部分にずぶずぶと進んでいきます。語り口は完全に信頼できない。現実をまともに見やしない。でも世界を「まともに」見ることのできるやつなんて、ほんとうにいるのか? 一人称で語る以上、主観は混じり、読者をどんどんと「そういう方向」へ誘導するものではないか。目の前の現実も過去も、あらゆるものが個人のなかでアップデートされ、歪む。

「過去は現在のものの見方で変わっていく」という。つまり、なにひとつ確かなものなんて、ない。

不確かな過去に潜り続けたときに目の前に広がる空虚。

それは、どんな色味だったとしても、ただ、虚。

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