ⅩⅩ 響け!ウチの愛の音!

 Ensembleって名乗る7人は、ウチの身近にいる人たちだった。すごく優しくて、話をちゃんと聞いてくれる人たち。なんか、不思議な感じがする。あの人たちと一緒にいたら、なんでもできそうな気がして……。


 あの日から、ウチはEnsembleの人たちと一緒にご飯を食べるようになった。みんな真剣に音楽に打ち込んでて、たまにアドバイスもしてあげる。分け隔てなく接してくれるのにウチはホッとした。高校時代に出会った人たちとは大違い。

「最近、近くに楽器泥棒がいるんだって。」

「は?信じらんねぇな。」

「そうですね。楽器の価値も分からない方に、わたくしたちの楽器を渡したくはありませんね。」

凪・焔・楽の会話がウチの耳に届いてくる。楽器泥棒のニュース、ウチも見たけどほんとに意味わかんない。

「そういえば、彗って誕生日いつなの?」

「え?10月30日だけど……?」

「じゃあ、まだ先かー……。」

がっかりとした霞の表情を見て、ウチはぷぷぷと笑い出す。その後、ウチを中心に笑い声が広がっていった。


 わたしたち7人は、ディソナンスが出現したのを受けて外に集まった。

「「「「「「「グラマー 」」」」」」」

オー!ルーメン!フー!トネール!

アイレ!トーン・ハーバード!エスパシオ!

「きらめくB♭ベーは平和の音!伝われ、水の力!」

「きらめくCツェーは希望の音!伝われ、光の力!」

「きらめくDデーは情熱の音!伝われ、火の力!」

「きらめくE♭エスは知性の音!伝われ、雷の力!」

「きらめくFエフは安らぎの音!伝われ、風の力!」

「きらめくGゲーは思いの音!伝われ、音の力!」

「きらめくAアーは再生の音!伝われ、時空間の力!」

「「「「「「「きらめく音はみんなの力!伝われ、Ensemble!」」」」」」」

 わたし・霞・珀・楽がディソナンスに向かって走り出した。すると、ディソナンスはピュンピュンという音を立てて豆のようなものを飛ばしてくる。焔と明が応戦したり、凪が扇を使って勢いを弱めようとしたりするけれど、なかなかディソナンスに近付くことができなかった。

「どうする?これじゃあ太刀打ちできない。」

霞の言葉にみんなが頷いた。そして、呪文を唱える。

「「「「「「「ハピネス 」」」」」」」

オー!ルーメン!フー!トネール!

アイレ!トーン!エスパシオ!

わたしたちの声が、辺りに響き渡る。けど、いつもはタクトが現れるはずなのに、今回はなにも起きなかった。

「え、なんでタクトが出てこないの!?」

みんなに動揺が広がっていく。これじゃあ、ディソナンスに攻撃することもままならない。すると、フロッシブが現れて高らかに笑いだした。

「皆さんお困りのようですね。もしかして、これを必要としているのですか?」

フロッシブが指さした方向には、黒く半透明になってる球体が浮かび上がっていた。その中にはごちゃごちゃと何かが浮かんでいる。よく目を凝らしてみると、見覚えのある楽器がいくつか浮かんでいるのが見えた。

「あれ、私の楽器!」

「俺の楽器もだ。」

「うちの楽器もある。なんで!?」

あの球体の中に、7人全員の楽器が閉じ込められている。わたしたちのだけじゃなくて、もっとたくさんの楽器が中に入ってる。そっか、あの球体のせいでわたしたちの呪文が届かないんだ。わたしたちは、どうすればいいのか分からずにその場で崩れ落ちた。


 ウチが大学に向かっていると、この前見た怪物の姿を見た。またEnsembleが戦ってるのかな……?ウチはウキウキしながら大学に向かっていく。すると、怪物の前に変身した7人の姿がある。けど、何やら雰囲気がいつもと違う気がした。7人の見つめている方向を見ると、何やら半透明になってる球体が見える。

「え、あの中にあるのって全部楽器じゃない?」

誰かの笑い声が聞こえてきて、急に胸がキューっと締め付けられる感じがした。頭の中に、この前の楽器泥棒の記事が思い浮かぶ。確か、まだ犯人は捕まってないんだよね。もしかして、あの人が犯人なんじゃ……?ウチは7人の前で笑ってる男の人を鋭く睨んだ。その後、ウチは近くに建ってる1号館に入ってあの男の人の前にまわりこむ。

「なんだ?お前……。」

ウチの拳に力が籠る。おっきく深呼吸して、ウチは男の人をまっすぐ見ながら話し始めた。

「あなた、なんてことしたのか分かってる?楽器は、持ち主にとって唯一無二の存在。それをあんな風に扱うなんて、許せない。」

ウチの話を聞いて、男の人は高らかに笑いだした。

「唯一無二の存在?そんな馬鹿なことがあるか。たとえ楽器が変わったって、同じように吹けるじゃないか。」

ウチはその言葉を聞いて、強く首を横に振った。

「吹けないよ。楽器一つ一つが、違った癖や個性を持ってて、それらを向き合ってウチらは楽器を吹いてるの。」

だんだん、胸が熱くなってくる。心から何かが溢れてくる。

「だから、ウチはあの楽器たちを助けて、絶対に持ち主に返す!」

気持ちが高ぶったその時、ウチは頭に浮かんだ言葉を叫んだ。

「グラマー クオーレ!」

 呪文を唱えると、ウチは桃色の光に包まれた。ウチが指でハートを描くと、ビビッドピンクの大きなリボンが現れる。それが胸のところについて、服がどんどん変化していった。肩のところがふんわりと丸く膨らんだ長袖のブラウス、裾の辺りがひだのようになっているペプラムスカート。地面をつま先で叩くと、桃色の編み上げブーツに変わった。前の方から暖かい風が吹いてきて、髪が茶色へ変わる。そして毛先がふわふわとカールしたツインテールになった。結び目がリボンで結ばれていて、右側に小さな帽子が斜めにかぶせられる。四方八方から桃色のリボンが飛んできて、服の至る所に編み込まれていく。腕のところ、ブラウスにつけられたリボンの下、スカート……。そして、リボンの端がきれいに結ばれて、腰の両側に膝くらいの長さまで伸びるリボンが現れた。

「きらめくHighハイ B♭ベーは愛の音!伝われ、心の力!」

 ウチに向かって、さわさわと優しい風が吹いてくる。その風で、腰の左右についたリボンがはためいていた。

「え、なにこれ!?」

服の至る所にリボンが編み込まれて、髪も黒いストレートから茶色いふわふわツインテールに変わってる。

「彗……!?」

「お前、もしかしてEnsembleの一員だったのか!?」

周りの人たちが、ウチを指さしながら声をうわずらせた。も、もしかして、ウチ変身しちゃったの!?

「行け、ディソナンス!桃色のアイツをぶっ潰せ!」

すると、怪物がウチの方を向いて動き出した。ウチはみんなを飛び越えて、一旦後ろに下がる。そして、息をフーっと吐いた。その瞬間、小さな豆みたいなものがウチをめがけて飛んでくる。ウチはそれらから逃げるように上下左右に動き回った。すると、突然ヒュンって感じの空気が素早く動く音が聞こえてくる。ウチは素早く腕を交差して、怪物の拳を受け止めた。

「くそ、バレてたか。」

男の人が、悔しそうな顔をしながら地団駄を踏んだ。でも、すぐにニヤリと表情を変える。

「でも、そんなに避けてるだけでは、何も変わらないですよね……?」

ウチはその言葉を聞いて、スーッと背中から何かが引いていった。それを狙ったのか、ウチのところにまた拳が飛んでくる。ウチはそれをギリギリのところで避けた。そして、校舎の壁を蹴って怪物の腕に着地して、腕を伝って登り始めた。横からもう一方の拳が飛んでくるけれど、それをジャンプしながら避けていく。肩のところまで来たところで、ウチは強く蹴り上げジャンプした。

「ハピネス クオーレ!」

ウチが呪文を唱えると、指揮棒みたいな杖が手に現れる。

「響け!愛のハーモニー!B♭ベー dourドゥア!」

ウチは4拍子の要領で、杖を三角形に振っていく。すると、B♭べーFエフDデーHighハイ B♭べーの音が一つずつ奏でられた。そのあとに円を描くと、4つの音が奏でる素敵な変ホ長調のハーモニーが聞こえてきた。

「ハピネス!リーベ・クオーレ!」

杖が鋭い矢に変わって、楽器たちが入った球体に向かって放たれた。すると、それが球体に突き刺さり、ひびが広がっていく。そして、ガッチャーンという大きな音を立てて割れた。

「みんな、チャンスだよ!」

ウチが7人に声をかけると、みんながうなずいて呪文を唱えた。

「「「「「「「ハピネス 」」」」」」」

オー!ルーメン!フー!トネール!

アイレ!トーン!エスパシオ!

解き放たれた楽器たちの中からいくつかの楽器が強烈な光を帯びてみんなのいる方向に飛んでいく。そして、さっきウチが手にした杖みたいなものに楽器が変化した。ホッとしたのもつかの間、男の人がウチに拳を打ち込んできた。

「ボクの名前はフロッシブ。もうすぐで倒せるかと思ったのに、よくもあんなことをしてくれたね。」

ウチはその言葉を聞いて、フロッシブをキリっと睨みつけた。フロッシブはそれに構わず話し続ける。

「あの楽器たちは、持ち主に何ヶ月も何年も使われなくなっていた楽器だ。もう持ち主たちにとってはただのお荷物。それなのに、なぜ君はあの楽器たちを持ち主に返そうとしたんだい?」

フロッシブが、まっすぐウチのことを見つめてくる。

「確かに、何ヶ月も使われなくなってたかもしれない。けど、持ち主とその楽器しか知らない思い出が、たくさん詰まってる。だから、今持ち主たちは自分の楽器を必死に探してるの。使わなくなったとしても、たくさんの思い出は絶対に消えないから!」

ウチは、フロッシブに拳を一発入れた。バランスを崩したフロッシブの胸ぐらを掴んで、一気に怪物のいる方向へ投げ飛ばす。

「「「「「「「響け!7人のハーモニー!」」」」」」」

B♭べーCツェーDデーE♭エスFエフGゲーAアー

「「「「「「「ハピネス!SeptetセプテットEnsembleアンサンブル!」」」」」」」

 みんなの攻撃を受けた怪物とフロッシブは、悲鳴をあげながら消えていった。

 その場に残されたたくさんの楽器たち。ウチらは警察に連絡して、楽器を引き取ってもらった。その後、その楽器たちは元の持ち主に返されたらしい。満面の笑みを浮かべて話してるインタビューをテレビで見て、ホッと肩を下ろした。
















 見えるぞ、あの桃色の力を持つ戦士の弱点が……。オレはフッと笑みを浮かべた。



~Seguito~

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