ⅩⅧ 本物と偽物 入れ替わり大作戦
「彗―!」
わたしはいつものように彗に話しかけにいく。でも、彗は大きなため息をつきながらスマホを見つめていた。しかも、わたしの声掛けに気付いてない。
「彗!」
わたしは彗の肩をポンポンと叩きながらもう一度話しかけた。
「あ!澄、おはよう。」
「お、おはよう。」
彗の作り笑いを見て、わたしは固まってしまった。彗、やっぱりなにか悩んでるんじゃ……。
昼休み、わたしはご飯を食べながら大きなため息をついた。
「澄、どうかした?」
隣でご飯を食べてた凪が話しかけてくる。わたしは渋々話し始めた。
「なんか彗が悩み込んでるみたいだから助けてあげたいんだけど、どうしたらいいかわかんなくて……。」
わたしはまた大きなため息をつく。すると、焔が腕を組んで口を開いた。
「そんなのほっとけばいいじゃないか。いつか自分で答えを見つけるだろうに。」
「でもほっとけないもん!」
「まぁまあ2人とも落ち着いて。」
言い争いになりかけたところを明が止めてくれた。わたしはムスッと頬を膨らましながら下を向く。すると、霞がなにかを閃いたみたいで手を叩いた。
「澄と私で入れ替わればいいんだよ!」
霞が目を輝かせながら、自信満々に話し始める。
「ちょ、ちょっと待って!?どういうこと?」
「だから、私が澄を装って一日過ごすの!その間に彗さんから話を聞くってこと!私、司書の授業受けてみたかったんだよね……。」
霞以外の6人が完全に引いている。わたしもサーって血の気がひいてく感じがした。
「霞、これは遊びじゃないんだよ?分かってる?」
「そうですよ。2年生なので、専門的なことも授業でたくさん出てきます。それに、万が一バレたら大変なことになりますよ?」
明と楽が霞の説得にかかる。けど、霞はどうしても曲げない。
「大丈夫!絶対バレないから!だって、私と澄は双子だし!」
霞の自信満々な声に、わたしは渋々同意した。
数日後、あまり影響がない曜日を選んで、わたしと霞が入れ替わることになった。一応わたしは霞に前回の授業で書いていたノートを送る。とはいっても、わたしたちの授業ってパソコンに入ってるメモ帳とかを使ってノートをとるんだけど……。わたしはノートパソコンを閉じて、ケースの中に入れた。上手くいくようにって祈りながら。
次の日、霞が取ってる授業の方が時間が早かったので、わたしは霞の家までパソコンを届けに行った。そのときに、一緒にパソコンのロックを解除するパスワードを書いた紙を渡す。
「じゃあ、よろしくね。」
「もちろん!」
霞が自慢げな笑みを浮かべる。わたしは霞の肩をポンポンって叩いてから大学に向かった。
大学で凪と合流して、教室に向かう。今日は、一日凪と一緒に授業を受けるんだ。とりあえずシラバスは見たけど、どんな授業なのか全く想像がつかない。
「大丈夫。うちが頑張ってフォローするから。」
少し緊張した凪がこんなことを言っている。あとから明も合流して、なんか少しホッとした。この2人がいれば大丈夫だって思えるから。
最初の授業、私は少し緊張しながら澄のパソコンの電源を入れた。そして、澄から渡された紙を見ながら真剣にパスワードを打っていく。周りの人たちがみんな慣れた手つきでパソコンを操作していくのを見て少しオドオドしてしまう。
「おはよう、澄。」
軽く声をかけて、私の隣に彗が座った。
「お、おはよう。」
私は、目を泳がせながらパソコンの画面に視線を移した。ドキドキして、口から心臓が飛び出そうな感じがする。すると、パソコンの画面の右端にピロッって何かがでてきた。
“霞、肩に力入ってるよ。リラックス、リラックス。”
あ、焔からのLINEだ。昨日、澄にパソコンでLINEが見られるように設定してもらったんだよね。すごい便利。私はLINEを起動して、焔に返信した。
あの後、彗さんの隣で一緒に授業を受ける。パソコンでノートをとるなんてすごく大変だったけど、LINEで焔と珀からサポートしてくれるからすごく助かった。澄っていつもこんな授業を受けてるなんて、知らなかったなぁ……。私はこんなことを思いながら、チラチラと彗さんの様子を見ていた。別に変なところはないように見える。真面目に授業を受けてる普通の女子大生って感じがした。
授業が終わって、昼休み。私は彗さんと一緒に食堂へ移動した。お弁当を広げて、彗さんの様子を見ながらご飯を食べ始める。多分この時間が絶好のチャンスなんだろうけど、どう彗さんに切り出したらいいのかわからない。私は悩み込んだ結果、とりあえず彗さんに適当に話しかけてみることにした。
「あの、彗。」
「ん?なに?」
「あ、いや、えっと……」
私は言葉に詰まってしまった。すると、ドスンと大きな縦揺れが起こった。それと同時に、テーブルの上に置いていたスマホが光る。
「彗、ちょっと用事思い出した!」
「あっそう……。いってらー!」
動揺した彗さんを置いて、私は食堂を飛び出した。
もう外にみんなが集まってる。私は息を切らしながらみんなのところに行った。
「「「「「「「グラマー 」」」」」」」
オー!ルーメン!フー!トネール!
アイレ!トーン・ハーバード!エスパシオ!
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「「「「「「「きらめく音はみんなの力!伝われ、Ensemble!」」」」」」」
変身すると、私・澄・楽がディソナンスに向かって走りこんでいった。後ろから銃弾・矢が飛んでくる。横の方から鞭が私たちを援護してくれた。
「澄、行くよ!」
「うん!」
私と澄が息を合わせてディソナンスに攻撃をしていく。
「わたくしも行きます!」
こう言って、楽も薙刀をディソナンスに突いていった。たくさんの攻撃を受けたディソナンスは、悲鳴をあげながらどんどん弱っていく。
「「「「「「「ハピネス 」」」」」」」
オー!ルーメン!フー!トネール!
アイレ!トーン!エスパシオ!
「「「「「「「響け!7人のハーモニー!」」」」」」」
「「「「「「「ハピネス!
攻撃を受けたディソナンスは、静かに消えていった。
ディソナンスのせいで、せっかくのチャンスを台無しにされてしまった。私は授業を受けながら途方に暮れる。この授業が終わったあとの放課後が、最後のチャンスだ。私は授業そっちのけで、どうしたらいいのか頭を抱えた。この時間は、私の時間割だと空きコマになっているはず……。私はパソコンでLINEを開いて、澄に連絡した。彗さんにメッセージを送ってほしいって。
「なに?話って……。」
放課後、彗さんが首を傾げながらとある空き教室に入ってきた。私は彗さんと向かい合うようにして席に座る。明るい日差しが差し込む中で、教室中に緊張感が立ち込めていた。私は、どう話し始めればいいのかと悩んで下を向いてしまう。すると、彗さんが大きなため息をついてから話し始めた。
「じゃあウチから。あなた、だれ?」
「え?」
私は驚きのあまり顔を上げて、彗さんのことを凝視した。
「あなた、澄じゃないでしょ?」
彗さんのトゲのある話し方に、私は彗さんから目線をそらす。心臓がドキドキして、背中には冷や汗が流れ始める。
「そ、そんなことないよ。」
「とぼけないでよ。絶対違う。あなたは澄じゃない。」
彗さんの真っ直ぐな目。私はここをどう切り抜けようかと考えを巡らせる。でも、やっぱり話を逸らしたら疑われちゃうかな?
「ど、どうして澄じゃないって思ったの?」
私は彗さんに疑問をぶつけながら、自分を落ち着かせようとする。でも、ドキドキが止まらない。
「タイピングが全然できてなかった。今日ほとんどノートとれてなかったでしょ?」
「そ、それは……」
「それだけじゃない。パソコンでずーっとLINE開いてさ、誰かからアドバイスもらってた。ウチ見てたもん。」
私の顔がどんどん強ばっていく。そんな中、彗さんがポツリと呟いた。
「それに、声が全然違ったもの……。」
私は大きなため息をついた。ダメだ。もう彗さんをごまかすことが出来ない。私は教室のドアのところに目線を送った。確か、外に澄を待機させておいたはず。それが通じたのか、ドアのところから澄がひょっこりと顔を出した。私はそれを見て手招きする。すると、澄が顔を下に向けながら教室の中に入ってきた。
「ごめん、彗。」
「ごめんなさい。」
私と澄が彗さんに頭を下げる。
「よかった。やっと少しすっきりした。」
そう言って、彗さんは少し笑顔を見せた。私はそれを見て少しホッとする。
「でも、どうしてこんなことやってたの?」
彗さんが首を傾げながら尋ねてくる。すると、澄が話し出した。
「彗が、何かで悩んでそうだったから。助けになりたいけど、どう聞いたらいいのか分からなくて……。」
「そっか……。」
彗さんはそう言って下を向いてしまった。そして、考え事を始めたように「うーん」と呟いて宙を眺める。少し時間が経って、彗さんは自分の悩みを話し始めた。
~Seguito~
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