ⅩⅠ 疑惑の始まり

 チャイムの音が微かに聞こえてくる。必修の授業が終わって、わたしは授業で使っていたパソコンを片付け始めた。隣で受けていた彗も、同じようにパソコンをしまっていく。

「彗さん、どうかしましたか?」

さっきまで授業をしていた先生が、彗の隣で声をかけてきた。それを聞いて、彗が片付けの手を止める。

「いつも丁寧に課題をやってくれる彗さんが、なんて……。」

先生の心配そうな表情を見て、わたしは片付けの手を止めた。彗が課題未提出?そんな、いつも授業中に先生が回答例として見せるくらい、きちんと課題をやってくるのに……。先生の話を聞いて、彗は下を向いてしまった。そして、小さく頷きながら話を聞いている。

「先生、彗だってそんな課題を忘れることくらいありますよ。仕方ないんじゃないですか?」

わたしは見ていられなかったので、彗のフォローに入ってあげた。

「まぁそうですね……。今回の課題は忘れないように気をつけてくださいね。」

先生にくぎを刺された彗は、下を向いたまま頷いた。そしてゆっくりと片付けに戻る。そんな彗を心配して横目で見ながら、わたしは自分の片付けを再開した。


「ねぇねぇ、焔と珀は先週のエゴサーチの課題やった?」

 次の日の昼休み、一緒にご飯を食べていた焔と珀に聞いてみた。

「うん、やったよ。」

「そんなのやったに決まってるだろ?あんな楽な課題。」

「だよね……。」

わたしは焔と珀の反応を見て、あごに手を当てて首をかしげてしまう。

ってなに?」

隣に座っていた霞がわたしたちの話題に顔を突っ込んでくる。

「エゴサーチっていうのは、自分の名前とかハンドルネームをYahooやGoogleとかの検索エンジンで検索することだよ。僕の知らない同姓同名の人とかが出てきて、面白かったなぁ……。」

霞に説明したあとに、珀は宙を見つめてボーッとし始めた。その話を聞いて、霞がスマホを机の上に出す。

「じゃあ私もやってみよーっと!」

霞の行動を見て、わたしはさらに首をかしげてしまう。

「こんなにすぐに終わる課題を、どうして彗は忘れてしまったんだろう?」

「そもそも、そのエゴサーチの課題ってどんなものだったの?」

ご飯を食べながら、明がわたしに質問してくる。

「え?普通にYahooとGoogleで自分の名前をエゴサーチをして、結果の画面をスナップショットしたものと、検索結果の違いを考察したものを提出するってだけですけど……。」

「じゃあスナップショットって?」

焔がにやにやしながらわたしに聞いてきた。そんなの同じ授業を受けてるんだから知ってるでしょ!

「スナップショットはスマホのスクショと一緒。スナップショットはほかの課題でも出されて使ってるから、やり方は分かってるはず。」

「ふーん。だとしたら、焔じゃないけど楽勝な課題だね。」

凪がわたしの方を見ながらつぶやく。わたしはこっくりとうなずいた。

「まぁ、楽勝だからこそ忘れたんじゃないのか?後でやろうって言って、そのままにしちゃったとかな。」

「そうかもね。わたしが深く考えすぎちゃったのかも……。」

焔の言葉を聞いて、わたしは食べ終えた食器を片付け始めた。


 その頃

 ウチはお昼ご飯を買おうと外に出た。そして、大学にある2つの校舎の間を通るように設置された大階段を下っていく。ウチは、昨日のエゴサーチの課題のことを思い出して、大きなため息が出た。あの時は澄がなんとか誤魔化してくれたけど、これからどうしよう?下を向きながら歩いていると、急にウチの周りが黒い影に覆われた。ウチはその場で足を止めて上を見上げる。すると、そこには5階建ての校舎と同じくらいの大きさの黒い怪物のようなものが立っていた。ウチは恐怖のあまり、そこから動けなくなってしまう……。

「「「「「「「グラマー 」」」」」」」

オー!ルーメン!フー!トネール!

アイレ!トーン・スピア!エスパシオ!

「きらめくB♭ベーは平和の音!伝われ、水の力!」

「きらめくCツェーは希望の音!伝われ、光の力!」

「きらめくDデーは情熱の音!伝われ、火の力!」

「きらめくE♭エスは知性の音!伝われ、雷の力!」

「きらめくFエフは安らぎの音!伝われ、風の力!」

「きらめくGゲーは思いの音!伝われ、音の力!」

「きらめくAアーは再生の音!伝われ、時空間の力!」

「「「「「「「きらめく音はみんなの力!伝われ、Ensemble!」」」」」」」

 ウチが何やら呪文のようなものが聞こえた方に目を向けると、武器を持った人たちが怪物の方に飛び出してきた。その中の2人くらいが、一気に5階建ての校舎と同じくらいまで飛び上がる。そして、剣のようなものを使って攻撃しているのが見えた。白と青の服を着た人たちが、空中で連携をとって攻撃してる。すごい、かっこいい。あの人たちが目が離せない。何度か戦ってるところを見たことがあるけれど、やっぱりかっこいい……。ウチは心の中で応援しながら、うっとりと戦いを見つめていた。下から攻撃してる人たちもいて、少しずつだけど怪物に傷がついていく。ウチはきらきらと目を輝かせた。

 すると、突然あの怪物と目が合う。何だろう?この急に湧き上がってくる恐怖感は……。ウチは手に抱えた財布を握りしめて、恐怖のあまり動けなくなってしまった。上に広がっている雲ひとつないきれいな青空が、怪物の拳で見えなくなる。ウチは小さく体を縮こませた。すると、背中の方に誰かがぶつかってくる。その瞬間にウチの体がふんわりと誰かに持ち上げられた気がした。うっすらと目を開けると、なぜかいつもより地面が低い場所にあるように見える。近くにある木々がさわさわと揺れて、爽やかな風がウチの方に吹いてきた。かと思うと、ウチは空中で一回転して誰かと一緒に地面に着地する。

「大丈夫?けがはない?」

「は、はい……。」

ウチは何が何だか分からないまま返事をした。少し経って、ウチは誰かにお姫様抱っこをされて助けられたことに気付き、少し顔が熱くなる。ウチを助けてくれた橙色の服を着ている人の後ろには、大きな拳とひび割れた地面が見えた。

 ウチがボーっとしていると、横に誰かが着地する。

「大丈夫?」

白い服を着た人から発せられた声。ウチはそれに不思議と安心感を覚えた。

「は、はい……。」

ウチが頷きながら答えると、その人がウチに笑顔を向けながら頷いた。あの表情、どっかで見たことある。表情だけじゃなくて、あの声も……。そんなことを考えていたら、白い服を着た人はまた怪物の方まで行ってしまった。橙色の服を来た人も、ウチを地面に優しく下ろして怪物の方に向かっていく。

「「「「「「「ハピネス 」」」」」」」

オー!ルーメン!フー!トネール!

アイレ!トーン!エスパシオ!

「「「「「「「響け!7人のハーモニー!」」」」」」」

B♭べーCツェーDデーE♭エスFエフGゲーAアー

「「「「「「「ハピネス!SeptetセプテットEnsembleアンサンブル!」」」」」」」

 あの人たちの攻撃を受けて、怪物は姿を消した。あの人たち、絶対ウチの近くにいる気がする。


〝絶対見つける

 ウチらを陰で守っているあの人たちのことを〟



~Seguito~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る