Ⅴ 本当の仲間

「はぁ……。」

 油断していると、つい大きなため息が出てしまう。すると、彗がわたしの顔を覗き込んできた。

「どうしたの?そんなため息ついて……。」

「いや、まぁ……。」

わたしはどうにかごまかそうとしてみる。だって、記憶の話は絶対できないし、この悩みは彗にうまく説明ができないと思うし……。でも、やっぱり話したい。でも、このまま一人で悩みこんでいても何も変わらない。少し考えた結果、わたしはやっぱり彗に話してみることにした。

「人間関係かな……?話したいことがあるんだけど、その後にどうなってしまうんだろう?って考えてしまって話せなくて。しかも相手はわたしのことをお構いなく話を進めてしまうから、なんだかいやになっちゃって……。」

わたしの話を聞いて、彗は腕を組み考え込んでしまった。

「そうだな、ウチならいったんその相手と離れてみるかも。そうしたら、落ち着いてその人のことを考えることができるし、相手も接し方とかを考え直してくれるかもしれない。」

わたしは「あー」と声を上げる。確かに、それもありかもしれない───


 あれから数日。どうしようか結論が出ないまま霞たちと付き合っていて、結局みんなの前で怒りを爆発させてきてしまった……。なんて言えばいいのかわからなくて、ずっとみんなを無視し続けている。この前ディソナンスが出たときも助けに行かなかったし、みんなもうわたしのことなんて信用してないよね……。

「どうしたの?澄、元気ないね。」

彗が心配そうにわたしの顔を覗き込んでくる。

「何でもないよ、大丈夫。」

そう言ってわたしはもう一度大きなため息をついた。そして腕を枕にして突っ伏す。わたしの目の前が、真っ暗な闇に包まれた。今の自分の頭の中みたい。多くの悩みがグルグルと回って混ざって、ぐちゃぐちゃしているように見えてくる。わたしはもう一度大きなため息をついた。「ちょっとコンビニ行ってくるね」といって彗が席を立つ音が聞こえる。わたしはそれに答えるように手を挙げた。

 すると、そのすぐあとくらいに何かがわたしの後ろをサッと通っていく感じがした。カタカタコツコツという革靴で歩いている音とともに……。わたしはバッと起き上がってすぐに後ろに振り向く。でも、そこには誰もいないし、誰かが通っていった跡もなかった。わたしはしばらく辺りを見回してから、軽く首をかしげる。すると、彗がコンビニから戻ってきた。

「澄、どうしたの?」

「いや、何でもない。」

疑問に思ったけれど、わたしは気にせずまたさっきの体勢に戻った。


 6月に入って、もうすぐテストも近づいてくる。そろそろ授業の復習を始めても良さそうかな……?そう思ってわたしは適当に持ってきたノートをパラパラとめくってみた。赤やオレンジで書かれた文字と、マーカーが引かれた文字を目で追っていく。でも、紙をめくる音が聞こえてくるだけで、全く頭に入ってこなかった。わたしは大きなため息をつく。そして、ノートを強く机に叩きつけた。頭の中でイライラが止まらない。

「一体どうしたらよいのやら……。」

 このまま考えていても何も変わらないと思ったわたしは、席を立ちあがって気分転換に学校の中を散歩をしてみることにした。空き教室を出て、あてもなく適当に1号館の中をぐるぐると歩いていく。今の時間は授業をしているから、わたしの足音とともにどこの教室からも真剣な表情をした学生が見えたり、楽しそうにベラベラとしゃべる先生の声が聞こえてきたりした。その声に混じってカタカタコンコンという革靴で歩いてくる足音も聞こえてくる。さっき食堂で聞いた音と同じ音……。わたしはそこでなにか気配を感じて、その場で立ち止まった。そして、顔をまっすぐ前に向ける。すると、突然わたしの前にだれか男の人が現れた。こんな時間に人が歩いてるなんて、珍しいな……。わたしはこんなことを思いながら、また前へ歩き始め、彼とすれ違った。サッという布同士が擦れる音。それと同時に、何かがすっと抜けていく……?わたしは胸のところを手でやさしく押さえた。何だろう?さっきの不思議な感じ。急に胸に穴ができたような気がする。いったい何が起こったの?わたしはさっきすれ違った人の方にバッと振り返ってみる。でも、そこには誰もいなかった。ここは授業中の教室が並んでいるだけで、抜けられるところなんてないはずなのに……。わたしはさっきまで胸を押さえていた手を放して、手のひらを眺めてみた。でも、特におかしいところも変わったところもない。わたしは首を傾げた。

「まぁいっか。」

おかしいなと思ったけれど、どうせ何かの勘違いだろうと思い直して、わたしはもとにいた場所に戻ることにした。


「澄、今日はもう授業は終わり?」

 わたしは机の上を片付ける手を止めた。そして話しかけられた方に顔を向ける。すると、そこにはわたしの方をまっすぐ見つめている珀の姿があった。

「まぁ別に、今日はこの後授業ないけど……。」

わたしは珀の方から顔を戻し、片づけを再開した。「そっか」という小さな声が聞こえてくる。

「今日さ、一緒に帰らない?この後、焔は授業があるから、僕一人で帰らないといけなくてさ。もしよかったらだけど……。」

珀の話を聞いている途中で片づけが終わり、カバンをもってその場で立ち上がる。そして大きなため息をついた。どうしよう?すごく気まずくなるのは目に見えているけれど、話し合うチャンスでもある。わたしは頭の中で考えを巡らせた後、わたしは珀の方に顔を向けて返事をした。

「いいよ。一緒に帰ろう。」


 あれからわたしと珀は一緒に帰ることになり、2人並んで歩いていた。でも2人で会話をすることはなくて、車や自転車が走っている音や最近強くなってきた日の光や暑さを感じるだけだ。これじゃあ、一緒に帰った意味がないじゃん。わたしは気付かれないように珀の方を見た。珀も同じことを考えているのか、下を向いてため息をつきながら歩いている。仕方ない。わたしは、自分から話題を振ってみることにした。

「珀、どうして今日一緒に帰ろうと思ったの?」

珀が顔を上げた。そして、わたしの方に顔を向ける。

「きっかけを作りたかったからかな……?」

「きっかけ?」

「そう。この間のことがあってさ、澄から話しかけづらくなっちゃったでしょ?僕たちからもあんまり話しかけない方がいいかなって空気になってて……。それじゃあ、もう話せなくなっちゃうじゃん。僕はもう一度澄と仲良くしたいし、一緒に戦いたい。その大きな一歩として、今日話しかけたんだ。まさか、一緒に帰れるとは思ってなかったけどね……。」

え?珀、そんなこと思ってくれてたの?わたしは珀の話をうなずきながら聞いていた。珀は、わたしに対して勇気を出してくれたんだ。自然と笑みがこぼれる。

「そっか、なんかその言葉を聞けてうれしいな。もう信頼されてないって思ってたから……。」

「そんなことないよ。みんな澄のことを信頼している。」

珀の澄んだ瞳。それを見ていると、珀は嘘をついていないということがよく分かった。わたしの目に涙がたまっていくのが分かる。わたしは珀に見られないように、顔をそっぽに向けて目にたまった涙を手で拭き取った。

「ごめんね、わたしのせいでこんなことになっちゃって。」

「大丈夫だよ。僕たちが悪かったこともたくさんあるだろうし、澄は悪くない。澄があの行動を起こしてくれたことで気付いたこともたくさんある。だから大丈夫。自分を責めないで。」

「うん。」

だんだん涙が止まらなくなってきた。そして、ついに珀にわたしが泣いていたことがバレてしまう。珀がゆっくりと背中をさすってくれた。周りにわたしの嗚咽が響いているのが分かる。珀は辺りを見回して、近くにあった駐車場の車止めブロックまで誘導してくれて、ゆっくり座らせてくれた。

「少し落ち着いたら、近くの公園まで行く?そこなら落ち着いて話できるし……。」

「大丈夫。そこまで迷惑かけられない。」

「そっか、分かった。」

珀が泣いているわたしを隠すように目の前でしゃがんでくれて、やさしく話しかけてくる。すると、「ふふ」という声が珀から漏れた。

「なに?どうしたの?」

「いや、なんでもない。」

そういって珀がそっぽを向く。わたしはさっきまで泣いていたのを忘れて、ついムキになってしまった。

「なんでもないじゃなくてさ、話してよ。気になるじゃん。」

「えー。だって、これ話していいのか分からないからなー……。」

「いいから、話して。」

わたしの言葉に、はぁと大きなため息をつく。

「ついこの前の話。昼食を6人そろってとってた時にさ、澄の話になったんだ。どうして怒ったんだろうねって……。」

「うん。」

「そうしたら、自分のせいで澄は怒ったんだって霞が泣き出しちゃって……。自分のせいだって責めちゃうところとか、泣いているときのしぐさとかがほんとに似てたからさ……。」

「へー。」

みんなで話し合っていたんだ。知らなかった。そして霞がそんなことを思っていたなんて……。

「なんかわたし、申し訳ないことしちゃったなぁ……。」

「まぁね。でもそれはもう過去の話。これからは少しずつ寄り添っていって、また仲良くしていこう。」

「うん。」

他にもたくさんのことを話して、そろそろ帰ろうかという雰囲気になった。わたしと珀はその場で立ち上がる。そして、また珀と一緒に歩き始めた。


「今日はたくさん話ができてよかった。ありがとう、珀。」

「こちらこそ。ありがとう、一緒に帰ってくれて。」

 わたしと珀はそんな会話をして別れた。そして珀の姿が見えなくなったところで大きなガッツポーズをする。わたしが悩んでいたことが、解決に向けて一歩前進した。また霞たちと仲良くできるかもしれない。わたしはハイテンションになったまま公園の前を通り過ぎた。もしかして、珀が言ってた近くの公園ってこの公園だったりして……。そんなことを考えていると、不穏な強い風がビューという音をたてながらわたしの周りを通り抜けた。周りの木々が揺れ、カラスの鳴き声が聞こえてくる。わたしはその場で足を止め、公園の方へ再度顔を向けた。すると、公園の中からバリバリという音が聞こえてくる。そして公園の中にあった遊具が変形し、空を覆いつくしてしまうほどの大きな物体へと姿を変えた。

「あれはディソナンス!?そんな、今は霞たちいないのに……。」

わたしは拳に力を入れる。一人でどうにかなるかはわからないけど、やるしかない。わたしは公園の中に足を踏み入れて、呪文を唱えた。

「グラマー エスパシオ!」

わたしの声が辺りに響き渡る。でも、いつもは呪文を唱えると白い光に包み込まれて変身できるはずなのに、今回は何も起こらない。わたしは何度も呪文を唱えた。

「グラマー エスパシオ!グラマー エスパシオ!」

なんで!?いつもなら変身できるはずなのに!次第に冷汗が出てくる。わたしが焦っていると、後ろからタッタッタと走ってくる足音が聞こえてきた。

「あれはディソナンス……。」

珀がキュッと唇をかむ。わたしは珀の姿を見て、涙を流しそうになった。

「珀!」


 なんか嫌な予感がすると思って澄が帰っていった方向に行ってみたら、そこにはディソナンスがいた。その目の前には澄がいる。でも、なんで澄は変身していないんだ?僕は疑問に思った。

「珀!」

澄が僕に話しかけてくる。彼女の表情を見てみると、瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。

「どうしよう?わたし、変身できなくなっちゃった……。」

僕はその言葉を聞いて、動揺してしまう。え、なぜ変身できないんだ?いや待て、今はそんなことを考えている場合じゃない。俺はポケットの中から自分のスマホを取り出し、LINEのグループを開く。

「澄、これでみんなに連絡して。」

僕はスマホを澄に差し出す。澄は頷いて受け取り、スマホを耳にあてた。それを確認して僕は呪文を唱える。今戦えるのは僕しかいない。絶対に食い止めないと……。

「グラマー トネール!」

 僕が呪文を唱えると、周りが黄色い光に包まれた。両手を広げると、ビリビリと体の外側全体に電気が走っていく。その電気が、僕の服を変化させていった。黄色いシャツにスーツを思わせるコート、足にぴったりとついたパンツ、先がとがったブーツ。腰のところにリボンの柄が入ったベルトが現れ、首のところからマントが広がった。最後に僕の右手に鞭が握られる。

「きらめくE♭エスは知性の音!伝われ、雷の力!」

 変身した後、僕は鞭を使ってディソナンスを叩いていく。でも、今日のディソナンスは金属製みたいで、僕が鞭で叩いてもカコンという音が聞こえてくるだけ。ディソナンスにダメージを加えられているとは思えない。やっぱり、みんなが来るまで澄や周りに被害が及ぶことを防ぐことしかできないのか……?

「ずいぶんと苦戦しているようですねぇ、珀くん。」

聞き覚えのある声。僕は上を見上げた。

「お前の仕業か、フロッシブ。」

僕は口をかみしめる。そしてフロッシブのことを鋭くにらんだ。

「そうだよ。でも、元の原因を作ったのはだれかな?」

ドクンと一回強く心臓が鼓動したのが分かった。元の原因?

「どういうことだ?」

「さて問題。このディソナンスの材料は、誰の心の闇でしょう?」

なんだ、その問題。僕が分かるわけがない。僕は困惑して目を泳がせた。すると、後ろから澄のつぶやく声が聞こえてきた。フロッシブのことを指さしている。

「あの人、昼間に見た気がする。」

「え?」

「わたしが1号館をふらふら歩いていた時に見た気がする。あの人とすれ違った後に、なんか心が軽くなった気がしたの。」

僕はフロッシブの方を見た。お前、もしかして……。

「大正解。このディソナンスは、澄の闇の心から生まれたものなんです!」

「そんな……。」

僕はすぐに澄の方を見た。澄は信じられないといった表情で目を見張り、体を縮こまらせている。すると、フロッシブが小さな声で呟いた。

「一般人には何も影響は起こらないはずなんだけどねぇ……。君たちはから、こうやって目に見える形で影響があるんだねぇ……。」

「フロッシブ、お前……。」

僕はフロッシブを強くにらんだ。仲間をこんな目に合わせて、絶対に許さない。そして手に持っている鞭を強く握りしめる。

「聞いていたよ、フロッシブ。」

僕は声を聞いて、後ろに振り返る。すると、そこには霞・焔・凪・明・楽の姿があった。

「お待たせ、2人とも。」


 2人の視線があたしたちに注がれる。話は外から聞いていたけれど、絶対に許すことはできない。涙目になった澄の不安そうな表情があたしの心に呼び掛けてくる。あたしは澄のところへ走って行って、軽く背中を叩いた。

「大丈夫。あたしたちが何とかする。不安だと思うけど、今はあたしたちのことを信じてほしい。」

澄はあたしの顔をじっと見つめた後にゆっくりとうなずいた。すると、あたしと澄の隣にみんなが集まって、一筋のラインができる。

「澄、ごめんね。」

「ごめんな、澄。もっと話をたくさん聞いてあげればよかった。」

「ごめん、ほんとに……。」

「澄、ごめん……。」

「ごめんなさい。」

みんなが涙を浮かべ、澄に謝っていく。その様子を見て、澄は少し戸惑っているようだった。

「澄、よく聞いてほしい。」

あたしは澄が目線を合わせやすいように少し屈んだ。泳いでいた澄の瞳があたしに集中する。

「今は悩むこと、戸惑っていること、不安なこと、それ以外にもたくさんあると思う。でも、それはあたしたちも一緒なんだ。」

「え?」

澄が目を丸くする。あたしはこう言って澄の方にやさしく手を乗せた。

「あたしたちも澄と同じように悩んできた。もしかしたら澄ほど悩んではいないかもしれないけれど、6人でたくさん話し合った。どうして澄は怒ってしまったのか、澄は何に悩んでいるのかたくさん考えた。結局答えは出なかったけれど、もっと澄に寄り添ってあげればよかったっていう思いがある。あたしは澄ともっと仲良くしたい。また一緒にしゃべれるようになりたいし、一緒に戦いたい。あたしたちに怒ってしまったっていう過去があるけれど、あたしは過去じゃなくてを見てほしい。」

すると、珀が口を開いた。

B♭ベーCツェーDデーE♭エスFエフGゲーAアー。僕たちの呪文とかに入っているこれらは、ドイツ音名といって、ドレミと同じような音の名前なんだ。B♭ベー始まりの音階だと、澄が言っているAアーの音は7番目。〝導音どうおん〟といって、次の音の高さステップへ導く音。澄がいないと、僕たちは次へ進めない。僕たちには澄が必要だし、僕たちは澄と一緒にいたい。」

澄が目を丸くして、口を上下にゆっくりと動かしている。さっきの言葉をつぶやいているのかもしれない。あたしはディソナンスの方へ顔を移した。澄の心の闇で作られたディソナンス。絶対に倒してみせる。

「みんな行くよ!」

「「「「「うん!」」」」」

霞・焔・凪・珀・楽の目の色が変わり、真剣な表情に変わった。

「グラマー ルーメン!」

 呪文を唱えると、あたしを中心に心地よい橙色の光が広がって、あたしのことを包み込んだ。あたしが上を見上げると、強い光を放つ太陽のようなものが見える。あたしはそれに向かって左手を伸ばした。すると伸ばした方の手首にリボンが結ばれ、服が上から変わっていく。腕のところまでひらひらと伸びたブラウス、バルーンパンツ、パンプス。最後にロングジレが着せられて、手には弓が握られた。

「きらめくCツェーは希望の音!伝われ、光の力!」

「「「「「「きらめく音はみんなの力!伝われ、Ensemble!」」」」」」

変身して、あたしたちはディソナンスへ立ち向かっていく。


 みんなが、わたしのために戦ってくれている。みんなが、わたしのことを真剣に考えてくれている。

「次のステップへ導く音か……。」

わたしは何となく目を閉じた。すると、なにか鮮明な画像が頭の中に浮かんでくる。

“「わたしは、自分が変えてしまったもの、壊してしまったものをもう一度元通りにしたい。」”

“「一人ひとりはすごく不安定で、弱くて、もろい存在かもしれない。でも、たとえ一人ひとりが弱くても、わたしたちは力を合わせることができる。息が合えば、自分たちも驚くほどの力を発揮できる。みんなバラバラの音が合わさって、一つのハーモニーが、音楽が、アンサンブルができるみたいに……。わたしはそう信じてる。」”

霞がわたしに教えてくれた記憶。〝わたしと霞たちは敵対していた〟その過去は変わらない。でも、そんなわたしをみんなは信頼してくれた。みんなの思いがバトンになって、みんなはそのバトンを渡してくれた。平和・希望・情熱・知性・安らぎ・思いっていう名のバトンを、わたしを信頼して繋いでくれた。この過去も、一生変わることはない。わたしはみんなが繋いでくれたバトンを、次のステップに繋ぐんだ。

 わたしが目を開けると、苦戦しているみんなの姿が見えた。わたしが助けなきゃ。わたしを信じてくれた人たちを、を……。

「グラマー エスパシオ!」

 呪文を唱えると、わたしの周りを白い光が包み込んだ。微かに時計がカチカチとなっている音が聞こえてくる。そして服が変化していき、その後に白銀に輝く剣を強く握りしめた。

「きらめくAアーは再生の音!伝われ、時空間の力!」

「「「「「「澄!」」」」」」

 みんなの笑顔が見える。わたしはくるくると一周回ってみた。袖がひらひらとした半そでの服、銀色に輝く布がかけられた白いスカート、白いブーツ、そして白いリボンによって結ばれたポニーテール。よかった、ちゃんと変身できたんだ……。

「みんな、お待たせ!」

わたしは剣を力強く握りしめ、ディソナンスに立ち向かっていく。

「そんな、変身できないはずなのに、何が起こったんだ……?」

フロッシブが動揺しているのが見える。でも、フロッシブが素早く冷静さを取り戻し、ディソナンスに指示を出した。

「まぁいい。行け、ディソナンス!全員まとめて倒してしまえ!」

フロッシブの言葉を聞いて、ディソナンスが動き出す。

「そんなことはさせない!」

凪が扇を構えて強い風を起こし、公園の砂を巻き上げる。その砂に混ざるように、焔が素早く拳銃を構えてパァァンという音とともに発砲。それと同時に、珀がパシンという音を出しながら鞭を振ってディソナンスを叩いていった。明が弓を構え、ディソナンスの目に向かって矢を発射する。ヒュンという矢が通過した音と同時に、楽が動き出して薙刀でディソナンスの顔を傷つけた。わたしは霞と一緒にディソナンスに向かって飛び上がる。そして剣を刃先が下へ向くように縦に構えた。

「澄の気持ちを利用するなんて、絶対に許さない!」

「わたしの過去を利用するなんて、絶対に許さないんだから!」

そしてわたしと霞は同時にディソナンスへ剣を突き刺した。ディソナンスが悲鳴を上げる。

「みんな、とどめを刺すよ!」

明の言葉に、みんながうなずく。

「「「「「「「ハピネス 」」」」」」」

オー!ルーメン!フー!トネール!アイレ!トーン!エスパシオ!

「何をやっているんだ、ディソナンス!反撃しろ!」

フロッシブがディソナンスに指示を出す。すると、ディソナンスが思いっきり手を振り上げて霞を攻撃しようとした。

「響け!再生のハーモニー!Aアー dourドゥア!」

そしてわたしは三拍子を描くようにタクトを三角形に動かす。すると豊かなオーボエの響きでAEC♯ド♯の音が聴こえてきた。わたしはその音を聴いてタクトを一回転させる。するとイ長調のハーモニーがわたしの耳に届いてきた。

「ハピネス!リバース・エスパシオ!」

すると、わたしのタクトが白色に輝き始めた。そして、白い光が霞を攻撃しようとしているディソナンスの手を包み込んでいく。

「ありがとう!澄!」

霞の声にわたしは頷いた。

「よーし!今度こそ!」

「「「「「「「響け!7人のハーモニー!」」」」」」」

B♭べーCツェーDデーE♭エスFエフGゲーAアー

「「「「「「「ハピネス! SeptetセプテットEnsembleアンサンブル!」」」」」」」

7色の光が、ディソナンスを包み込む。そしてディソナンスは次第に姿が消えていった。


 わたしたちの変身が次第に解除されていく。そしてわたしたちの奥に見える空には、きれいな赤色の夕日を望むことができた。

「澄……。」

霞の声が聞こえて、わたしは霞のいる方向に顔を向けた。けれど、夕日の光で陰になり、霞の表情を読み取ることができない。

「うん?」

「澄、ごめんね。私が夏祭りの提案したから……。」

「だから、それは直接の原因じゃないって。何回言ったら分かるのよ。」

霞に凪から突っ込みが入る。霞はそれが不満みたいで、リスのように頬を膨らませた。

「凪の言う通り。わたしは夏祭りの提案で怒ったわけじゃないよ。」

みんなの視線がわたしに注目する。わたしはそれに驚いてドキッとしたけれど、息を静かに整えて話し始めた。

「わたしが怒ったのは、みんなが自分勝手に考えていると思ってしまったこと。わたしはみんなに聞きたいことがあったんだけど、話しづらくて誰か振ってくれないかなって待ってたんだ。でも、そんなわたしの考えとは裏腹にどんどん物事が進んでいってしまって、よくわからなくなっちゃった。自分のことなんて必要とされていないし、自分たち6人がよければいいと考えていると思っちゃったんだ。それで、霞が夏祭りの提案をしたときに、それが爆発して怒っちゃった。でもよくよく考えたらさ、自分から言わないとやっぱりわからないよね。」

みんなが静かに頷きながら、わたしの話を聞いてくれる。自分の気持ちを話していく過程で、少しずつわたしの心の中にあったが取り払われていくように感じた。

「そうだね。ありがとう、みんなに話してくれて。」

明のやさしい声が、わたしの心に温かく柔らかいものを広げていった。すると、焔が何かを思いついたように話し始める。

「せっかくだから、みんなでご飯にでも行くか?ここで別れるのもあれだし、ご飯食べながらゆっくり話そうぜ!」

「そうだね、賛成!」

霞が手をビシッと真上に挙げる。ちょっと待って、さっきの不満そうな顔はどこへ行ったの?わたしはこう思って少し心の中で笑ってしまった。

「わたしも行く行く!」

わたしも霞と同じように手を挙げた。ほかのみんなも笑顔でうんうんと首を振る。

「よーし!こうなったら早く行こうぜ!こんだけ人数がいるんだし、席がなくなるぞー!」

テンションが上がった焔を先頭にして、公園を出た。そして、みんなでご飯を食べに歩いていく。

「焔ってこういうの好きなの?」

「え?どうなんだろう?でも、こうやってご飯食べに行こうっていうのはいつも焔から提案されることが多いかもね。」

霞とのやり取りでわたしはふふふと笑ってしまった。


 この後のご飯で、わたしはみんなに向けて悩んでいたことを話すことができた。

「この前、霞がわたしの記憶を戻してきたでしょ?その記憶をどうしても信じることができなくて……。わたしとみんなは敵同士で戦っていたということを理解できなかった。なんでこういうことになってしまったのか、混乱して考えることができない。だから、みんなから教えてほしい。」

せっかくのご飯で暗い雰囲気になってしまうかもしれないと思ったけれど、お店のガヤガヤとした雰囲気のおかげでそんな雰囲気がかき消されてしまう。わたしの言葉を受けて、みんなはわたしの疑問に対する答えを教えてくれた。その中で、明が言っていたことが心に残っている。

「今は、あたしたちは敵対していない。みんな仲良くしてるじゃない。さっきも言ったけれど、あたしは過去じゃなくてを見てほしい。突然のこと過ぎて信じられないことも多いかもしれないけど、怖くなったり悩んだりしたら話してほしい。話せなくても、サインを出してほしい。みんなで澄のことを信じて、考えているから。たとえ本音を話すことができなくても、こうやってほかのところで思ってくれる人がいるってことを知ってほしい。」

この明の言葉が、わたしの心をほぐしてくれた。そんな気がした。


~Seguito~

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