Ⅲ わたしたちの繋がりと隠された秘密
「ねぇねぇ、知ってる?昨日、食堂に怪物みたいなのが現れたって話!」
彗がわたしの姿を見て早々こんなふうに話しかけてきた。知ってるも何も、昨日わたしたちが倒したのに……。わたしは少し微笑みながら首を縦に振った。
「なんか噂で聞いたけど……。それがどうしたの?」
「昨日、その怪物を倒した7人組がいるんだって!」
わたしはその話を聞いて、一瞬にして背筋が凍る。ウソ、噂で広がっているの!?
「その前は、校舎の間にある階段のところに怪物が現れて、同じ7人組が倒したって!凄くない!?」
「う、うん。まぁ……。」
わたしは彗の興奮気味なところに押されてしまう。それと同時に、次第に鼓動が速くなっていく。わたしは、昨日霞に言われたことを頭の中で思い出した。
“「澄、私たちみたいに変身してディソナンスと戦っていることは、誰にも言っちゃだめだよ。」
昨日、霞からくぎを刺された。わたしは目を見開き、首をかしげる。
「ごめんね、急にこんなこと言っちゃって……。珀から、友達に私たちとの関係を聞かれたときに言葉が詰まっていたって話を聞いたから。」
霞の言葉を聞いて、頭の中で話がつながった。
「わかったよ、霞。誰にも話さないようにするね。」”
彗がわたしの顔を覗き込んでくる。
「あれ?澄、どうしたの?体調悪い?」
「ううん!大丈夫!なんでもないよ!」
わたしは家にあるオーボエのケースを眺めていた。なんで、昨日オーボエが急に現れたんだろう?
“「これは
昨日霞から言われた言葉が頭の中でこだまする。パートナーって言われても、わたしオーボエなんて吹いたことないし、楽譜だって読めないよ。いったい、どういうこと?わたしの中で、疑問点がどんどん増えていく。
「こんなことになるんだったら、6人誰かとLINEを交換しておくべきだった……。」
わたしは大きなため息をついた。そして、組み立てるとオーボエの一番下になる少し円形に膨らんだ場所を触る。
「君はどんな音が出るんだろうね?せっかく目の前にあるんだもの、吹いてあげたいな。」
次の日
わたしが学校の外を歩いていると、かすかに楽器の音が聞こえてきた。この音は、フルートとクラリネット……?わたしは自然と音の聞こえてくる方向へと足を向ける。歩いていくたびに、少しずつその音が大きくなっていき、2つのハーモニーが絡み合っているのが分かった。
「あれ?澄、何してるの?」
目を丸くした霞が、わたしに話しかけてくる。その隣には焔がいた。霞の手には青みかかった銀色のメッキがかかったクラリネットが、焔の手にはピンクゴールドにきらめくフルートが握られている。
「ご、ごめん。邪魔しちゃって……。」
「いや、いいんだよ。俺らもちょうど終わりにしようと思ってたし……。」
そう言って焔がわたしのことを手招きしてくる。わたしはゆっくりとうなずいて、2人のもとへ寄って行った。
「この前も思ったけれど、2人の楽器ってなんか珍しいよね。こんなにきれいな色をした楽器、見たことない……。」
「きれいだって思ってくれてるの?ありがとう。」
優しく笑みを浮かべる焔に、わたしは頬を赤くしながら首を横に振る。
「澄の楽器もきれいだなって思うよ。」
霞がわたしに話しかけてくる。霞の言葉に焔も頷いた。
「ほんとに仲がいいよね、2人とも。喧嘩したりとかしないの?」
わたしが首をかしげながら2人に聞いてみる。すると、2人は顔を見合わせて首を傾げた。
「そういえば、あんまり喧嘩したこととかないかも……。」
「うん。俺も記憶にないなぁ……。」
わたしは2人のことを見て、羨ましく思った。わたしにも、こんな相手が現れる日が来るのだろうか……?
「繋がっているから。」
霞が急に言葉をこぼした。わたしと焔が霞に視線を集中させる。
「ご、ごめん。なんでここまであまり喧嘩したことなかったんだろうって考えたら、この言葉が出てきてつい……。」
霞が頬を赤くさせる。聞かれたのが恥ずかしかったのかな?
「どうして、そう思ったの?」
焔が霞にやさしく話しかける。そして、霞がゆっくり話し始めた。
「いや……。私がこの
「繋がりか……。」
わたしはこの“繋がり”という言葉を頭の中で反復させていく。霞と焔には、強い絆という繋がりがあって、わたしと霞には姉妹という繋がりがある。また、わたしたち3人に加えて凪や珀、明、楽の間にはディソナンスと戦うことができる力を持っているという繋がりもある。でも、その力って自分が生まれつき持っていた才能?それとも、何か他の要因でもあるの?
「あのさ、変なこと聞いていい?」
わたしの声を聞いて、2人の視線がわたしに集中する。そして、首をかしげながらもすぐに頷いてくれた。
「わたしの素朴な疑問って感じなんだけど、わたしたちの間に特別な繋がりってあるの?」
「特別な繋がりって?」
「なんか、その、うまく言えないんだけど、なんでわたしたちは何かの力を使って変身して、ディソナンスと戦えるんだろうな?って……。前も言った気がするけれど、普通の人はそんなことできないじゃん?たぶん、わたしが知らない繋がりみたいなものがあるんじゃないかな?って思ったの。」
わたしの言葉を聞いて、2人が顔を見合わせる。2人とも目が泳ぎ、何かを迷っているみたいだ。
「どうしたの?二人とも……。」
2人の表情を見て、わたしは次第に不安になっていく。胸の奥がキューっと締め付けられていくような感じがした。
「澄、言ってもいいけど、あなたはこの現実を受け止められる?」
霞が不安そうに聞いてきた。なに?その言葉……。ドキドキしてきて、わたしは胸に手を当てる。焔が何かを察したのか、わたしの横へとやってきて背中をさすってくれた。
「受け止めるよ、わたし。いつかは聞かなければいけないことだと思うし、それがどんなことであったとしても、わたしは2人のことを信じる。」
2人の目が丸く変わっていったのが分かった。そして、わたしの目の前に霞がやってきて、わたしの左頬に霞の右頬を当てる。すると、その隙間から青色と白色の光が出てきた。わたしはゆっくりと目を閉じる。わたしの頬から何かが浮き上がってくるような感覚がして、ピリピリと微弱な電気が流れてくるような痛みが走った。その痛みと一緒に、何か映像のようなものも流れ込んでくる。
“「どうして信じてくれないの?私もお姉ちゃんみたいに魔法を操ってみたいのに、勉強したいのに、どうしてできないの?」”
わたしが涙ながらに何かを訴えている。これは、わたしの小さい頃の記憶……?そして、目の前にはわたしと瓜二つの顔を持つ女の子が立っていた。彼女の揺れる瞳がわたしの脳裏に刻み込まれる。
“「〝
これはさっきの画像よりも少し大人っぽくなっている気がする……。それに、なんか変だ。わたしと彼女の名前が違う……?
“「だ・か・ら、あなたの故郷は地球じゃない。」”
わたしは霞のことを力いっぱい抱きしめる。どういうこと?わたしの故郷が地球じゃないって、そんな……。わたしは顔を上げて、霞の顔を見た。すると、霞の右頬に何か印のようなものが浮かび上がっている。青い龍のような印が……。そして霞の瞳には、白く輝いた龍の印が左頬に浮かび上がっているわたしの顔が映っていた。
「私たちの故郷は、地球とは遠く遠くかけ離れたアルモニーという星なの。」
「「え!?澄に教えた!?」」
うちと明の声が周りにこだまする。目の前にいる霞が慌ててうちらの口を塞いできた。
「ちょっと、凪も明も声が大きい。」
「いや、霞のせいだからね!?」
3人の周りに動揺が広がっていく。
「澄は信じてくれたの?」
明が霞にゆっくりと問いかける。
「最初は動揺してたけど……」
「そりゃそうでしょ。」
「まぁ……。でも少しずつ落ち着いてきて、なんとか納得してくれたよ。」
霞がしゅんと縮こまる。
「ごめんね……。その、やっぱり隠しておくのが嫌だったっていうか、早く思い出してほしかったっていうか……。」
「まぁでも、その気持ちもなくもないか……。」
うちは言い過ぎてしまったという反省の意味を込めて、霞の背中をさすってあげる。
「これからどうするの?納得してくれたとはいえ、やっぱりどこかには信じ切れていないところもあると思うの。」
明が真剣な顔をしながら霞に言った。
「とりあえず、やさしく見守ってあげるしかないかなって……。」
霞の言葉に、うちと明はうなずく。
「そうだね。文学部の3人にも言っておかないと。」
うちらの話が終わった頃、教室の外から悲鳴のようなものが聞こえた。うちらは顔を見合わせる。
「「「ディソナンスかも!」」」
うちらは急いで立ち上がり、さっき悲鳴が聞こえた場所まで走っていった。すると、建物の中にある階段のところにディソナンスがいる。建物には階段が1つしかないために、ほかの人たちが逃げることができず、壁のところで震え上がっている。
「皆さん、できるだけここから離れてください!」
明が周りの人たちに声かけをしていく。明の声を聞いて、少しずつだけれど人がいなくなっていった。そして人がいなくなったのを確認して、3人で呪文を唱える。
「グラマー アイレ!」
呪文を唱えると、緑色の光がうちのことを包み込んだ。自分がいる場所から一歩踏み出すと、下から強い風が吹き込んでくる。うちは両腕を広げて高く飛び上がった。すると、体の部分が緑色の光に包まれる。そして服が少しずつ変わっていった。長袖のブラウスに、ひざ下までひらひらと伸びるスカート。下に着地すると、靴がショートブーツに変わった。足首のところに小さくリボンが結ばれる。そのあとに後ろから柔らかい風が吹いてきて、その風が腕ぐらいの丈のポンチョへと変わり、髪もショートボブに整えられた。最後に、うちの手に扇が握られる。
「きらめく
「澄、大変!5号館で怪物が現れたの!」
彗からLINEが送られてきた。ちゃっかり写真まで撮っている。わたしはこのLINEを見てすぐに立ち上がった。そして近くにいた焔と珀、そして楽に声をかける。わたしのスマホを見せると、追加でこんな文が送られてきた。
「今ね、青と緑と橙色の服を着た人たちがその怪物と戦ってる!」
その文を見て、すぐに霞と凪、そして明が戦っていることが分かった。
「5号館って書いてあったよね!?」
珀の言葉にわたしはすぐにうなずく。そしてすぐにみんなと一緒に出発した。わたしたちがさっきまでいた1号館から見ると、5号館は少し距離がある。3人とも、頑張って……。
「どうする?文学部の人たちは来るのに少し時間がかかるかも……。それに、ほかの人たちが逃げられないから、犠牲になる人も多くなる。」
明が冷静に状況を整理していく。
「とにかく、タクトで食い止めるしか方法はないよね。」
「そうだね。それに、タクトを使うと光が出るから、私たちを早く見つけ出してくれそう。」
うちらは3人で顔を見合わせた。そして呪文を唱える。
「「「ハピネス 」」」
オー!アイレ!ルーメン!
タクトを出したことに気づいたディソナンスがうちらに攻撃をしてくる。うちは一歩前に出て、呪文を唱えた。
「響け!安らぎのハーモニー!
うちは3拍子を刻むようにタクトを三角形に振る。すると、ホルンの音色で
「ハピネス! デスカンソ・アイレ!」
するとうちのタクトが緑色に輝き始め、うちの前にシールドが張られた。そのシールドが、ディソナンスの攻撃を跳ね返していく。
「凪、ありがとう!」
霞の声がうちの耳に届いてくる。その後に、明がタクトを構える音が聞こえた。
「響け!希望のハーモニー!
明が3拍子を刻むように三角形の形をタクトで描いていくと、トランペットの音色で
「ハピネス! エスポワール・ルーメン!」
明が呪文を唱えると、体が橙色の光に包まれる。そしてディソナンスの方へと飛び出していった。明の体がふんわりと地面から浮かび上がり、ディソナンスに突っ込んでいく。飛んでいく軌道に光の線ができ、明は幽霊のようにディソナンスを通り抜けた。そして明はディソナンスの後ろに着地する。
「よし、私も行くよー!」
そういって霞がタクトを構えた。
「響け!平和のハーモニー!
こう言ったあと、霞は3拍子を刻むように三角形にタクトを振った。すると、クラリネットの音色で
「ハピネス! シャローム・オー!」
霞が呪文を唱えると、目の前にゼリー状の水が出てくる。その水が、さっき明が生み出した光と反射してきらきらと輝いていた。そう思ったのもつかの間、そのゼリー状の水がディソナンスを包み込み、身動きをとれないようにする。うちらは少しホッと息をはいた。すると、すぐ近くの窓ガラスがガチャンという音とともにひびが入る。うちらは目を丸くして、その窓ガラスに注目した。
「あれは、タクトで攻撃をしている光じゃないか?」
焔が5号館の方を指さす。すると、そこには3階の方でチカチカと光っている窓が見えた。
「ここで変身しましょう。中がどうなっているのか予想がつきませんし、外からでも援護はできます。少し時間がかかっているので、一刻も早く3人を援護するのが正しいと思います。」
わたくしがこう提案すると、みんなが頷いてくれた。そして、一斉に呪文を唱えていく。
「グラマー トーン・スピア!」
呪文を唱えると、わたくしは紫色の光に包み込まれた。わたくしが手を2回叩くと、紫色の八分音符が現れる。わたくしがこれらに触れると、手首くらいまで隠れるグローブに変化して、わたくしの手にはめられた。足元で指をはじくと、また紫色の八分音符が出てきてブーツに変化する。右手でト音記号を描き、手を広げて横へと動かすと五線譜となってわたくしを丸く包んだ。その五線譜が服へと変化する。袖のところがぷくっと丸く膨らんだ服に、膝上丈で5本の黒い線が入った薄紫色のスカート。胸のあたりに紫色のリボンが結ばれ、結び目には黒色のト音記号が刻まれた。
「きらめく
みんなが変身すると、澄が建物の中に入っていく。それと同時に、わたくしの隣で焔が拳銃を構えた。そしてチカチカ光っている窓ガラスに向かって発砲する。鋭い銃声の後に、窓ガラスに細かいひびが入った。
「そっか、学校だから防弾ガラスなのか……。」
珀がわたくしの後ろで小さく呟いた。
「割れなかったですが、あれでガラスがもろくなったはずです!」
そう言ってわたくしは窓ガラスに向かって跳びあがる。そして槍を手に出し、窓ガラスに向かって力いっぱい突いた。ガッシャーンという音とともにガラスが割れ、周囲に破片が飛び散る。中では霞がディソナンスにタクトを向けて攻撃していて、それを護るように凪がシールドを張っていた。
「「楽!」」
霞と凪の声が聞こえてきた。わたくしは窓枠に足をかけ、何とかして建物の中に入る。すると、ディソナンスの後ろにチラリと明の姿が見えた。
「遅くなってすみません。」
わたくしがこういうと、2人は首を横に振った。ほかの焔や珀もわたくしが割った窓から入ってきて、ディソナンスの方を見ると後ろの方で明と澄が合流したのが見える。
「さあ、あともう一息ですよ!」
わたくしはその場で叫んで、手に持っていた槍をディソナンスに向かって投げた。
楽がディソナンスの方に向かって槍を投げる。するとその槍はディソナンスに命中し、鋭い悲鳴を上げた。その後に、ディソナンスは最後の抵抗をしようと霞の放ったものだと思われる水の膜を打ち破る。それを見た珀がとっさに手に持っていた鞭を振った。でも、ディソナンスがそれをかわしてしまう。わたしたちは目を見合わせて、呪文を唱えた。
「「「「ハピネス 」」」」
フー!トネール!トーン!エスパシオ!
全員がディソナンスにタクトの先を向ける。ディソナンスがそこまで弱っていないからどうなるかわからないけれど、やってみるしかない!
「「「「「「「響け!7人のハーモニー!」」」」」」」
みんなが音を言っていくにつれて、タクトが順番に光っていく。
「「「「「「「ハピネス!
ディソナンスを帯状になった音符たちが包み込んでいく。ディソナンスがそれを打ち破ろうと必死に体を動かす。わたしは今よりもタクトを握る手の力を強めていった。そしてタクトの先をくるくると回していく。前よりも時間がかかってしまったように感じたけれど、何とかディソナンスを倒すことができた。
ディソナンスを倒した後、わたしたちは素早くその場を離れる。LINEを彗がくれたんだから、もしかしたら近くで見ているかもしれない。5号館の階段を下っている途中で変身が解除された。階段を下りきると、力が抜けてその場で倒れこむように座る。
わたしは視線を上げた。上には真っ白の天井が見える。霞が見せてきたあの画像。あれってやっぱりわたしの記憶なのかな?抵抗感もあまりなかったし……。でも、でも、でも……。わたしは霞たちのことを信じたい。でもやっぱり、どこかで嘘なんじゃないかって思ってしまう。わたしは、どうしたらいいのだろう?
~Seguito~
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