Ensemble~マルシュとデュエット~
鈴珀七音
Ⅰ 冒険の始まり
不思議な体験をした。いや、もしかしたらそこまで不思議でもないかもしれないけど……。だって、世の中には似ている人が3人いるって言うし。これは当たり前のこと。でも、やっぱり何か引っかかる。あんなにわたしにそっくりな人が、この大学の中にいるなんて……。
「昨日さ、変な夢を見たんだよねー。」
ゴールデンウィークが終わって、みんなが浮き足立っているある日の空きコマ。わたしは友達の
「変な夢?」
「そうそう。わたしが呪文を唱えると何かに変身して、敵と戦うみたいな。」
この言葉を聞いた彗が、目を輝かせながら興味津々に聞いてきた。
「何それ!?超面白そうじゃん!詳しく聞かせてよ!」
わたしはこの彗の反応を見て唖然としてしまう。
「いいけどさ、彗ってわたしと同じ大学2年生だよね?そんな子供じゃあるまいし……。こんなことに興味あるの?」
「なにさ、いけない?そんなことに興味あって……。」
彗がこう言うと頬を風船のように膨らませた。
「いや、ごめん。そんなつもりじゃなかったの。なんか、意外だなって思って……。」
その言葉を聞いて、彗は首をかしげる。
「そうかな?まぁとにかく、早く話してよ!聞きたい!」
「分かったよ。じゃあ話すね。」
わたしは今にも突っ込んできそうな彗をなだめた。そしてわたしは昨日見た夢を思い出してみる。ほかの夢は割と忘れがちになってしまうけれど、昨日見た夢は不思議とすぐに思い出せた。
「なんかね、呪文を唱えたら着ていた服が白色に変わって大きな敵と戦うの。」
「大きな敵?魔法少女みたいな感じ?」
「確かにそんな感じかも……?でも、あんまり魔法は使ってなかった気がする。武器も杖みたいなやつじゃなくて剣だったし。」
「へー、それって1人で戦うの?」
「ううん、5~6人かな。それぞれ違う色の服を着ていた。武器もみんなそれぞれ違くて……。」
彗がわたしの話をうなずきながら聞いている。頷くごとに、彗の瞳に光がさしていくように感じた。
「そんなにいるんだ。いいなぁ、そんな風に夢に出てきたらいいのになぁ……。」
彗がうっとりした表情で、宙を仰ぎながらこう呟く。
「そうだね。こんな夢なんてただの空想だし、正夢になることなんてないもんね。」
その言葉を聞いて、彗が無邪気に笑い出した。わたしもつられて笑ってしまう。それがまさか、あんなことになるなんて……。
「今日もなんかうまくいかなかった……。」
わたしは今日の授業が終わった後、自分のパソコンを片付けてから教室の外に出た。そして学校の外に向かおうとトボトボと歩いていく。わたしは下を向いて大きなため息をついた。
“最近、何もかもがうまくいかない。周りの人たちの空気もよくないし、授業でも失敗ばかり。何かいいきっかけが起きれば、この負の連鎖が終わるかな?なにか、わくわくすることが起きないかな?”
校舎の外に出たわたしは、また大きなため息をつきながら、家に帰ろうと駅の方向へ足を向ける。すると、わたしの帰る方向を影が覆いつくした。わたしは不思議に思って上を見上げる。そして大きく目を見張った。
「何あれ!?」
わたしが影を作っている方を見ると、そこには巨大な怪物のようなものがわたしたちのことを見下ろしていた。わたしと怪物の目が合うと、怪物はわたしに向かってとげのようなものを発射してくる。そのとげが、レンガを規則正しく並べられている床や階段に突き刺さっていった。わたしは体を縮こまらせながら後ろへと下がっていく。でも、わたしは段差につまずいてしりもちをついてしまった。わたしは、そのまま体がすくんで動けなくなる。これっていったいどうすれば……?
すると、わたしの目の前を誰かが通り過ぎていった。青色の服に身を包み、左手にキラキラと透き通るように輝く剣を握りしめた女の人が。そして、その人が1人であの怪物に立ち向かっていく。そのあとに、建物の隅や窓の方から、仲間だと思われる人たちが出てきた。拳銃を持って赤の服を身にまとった男の人、扇を持って緑色の服を身にまとった女の人、鞭を持って黄色の服を身にまとった男の人、弓を持って橙色の服を身にまとった女の人、やりを持って紫色の服を身にまとった女の人。なんか、虹みたいできれい……。わたしはしばらくの間、この光景に見とれていた。
“この光景、どこかで見たことあるような……。もしかして、昨日見た夢……?”
すると、青色の女の人がわたしの隣に着地した。そしてわたしと目が合う。彼女のきれいな青色の瞳がわたしの頭に刻まれた。わたしの鼓動が次第に早くなっていく。そのあとに彼女がわたしに近づいてきた。
「
彼女がわたしに話しかけてきた。なんで、わたしの名前を知っているの?
「澄、お願い。あなたも手伝って。」
そう言って彼女がわたしに手を差し伸べて、握ってきた。そんな……。「手伝って」って言われても、わたしは彼女たちみたいに変身できるわけでもないし、武器を使えるわけではない。いったいどうやって手伝えって言うの?そんなことを考えていると、わたしは昨晩夢で見た出来事を思い出した。あの時、わたしは彼女たちみたいに変身して誰かと一緒に戦っていた。変身する前になにか呪文を唱えていたはず。わたしはその場で立ち上がり、頭の中を巡らせて思い出そうとした。そして頭の中に言葉が浮かぶ。
「グラマー エスパシオ!」
呪文を唱えると、わたしの周りを白い光が包み込んだ。微かに時計がカチカチとなっている音が聞こえてくる。頭上に円を描くと、その円が時計へと変化する。それがわたしの方へと下がってきて、わたしはそれを、目をつぶってからフラフープのようにくぐっていく。手、服そして足のところが白い光に包み込まれた。そして、一か所ずつそれらがはじけて服へと変化していく。袖がひらひらとした半そでの服。そこから膝丈くらいの白いスカートが伸びていき、そのスカートの上に銀色に輝く布がかけられる。靴が白いブーツへ変化して、その後にわたしの長い髪が白いリボンによってポニーテールに結ばれた。そして最後に、わたしの目の前に白銀に輝く剣が現れる。わたしはそれを強く握りしめた。
「きらめく
わたしの頬を風が優しくなでていく。わたしは手に握られた剣を見て、目を大きく見開いた。
「うそ!?ほんとに変身しちゃった!」
鼓動が速くなって、体に力がみなぎってくる。その後に、わたしはゆっくりと怪物の方に視線を移した。
「あれはディソナンス。人の闇のこころから生まれる私たちの敵。」
隣にいる彼女がわたしにこう言った。そしてわたしは彼女に向かってうなずく。さっそく彼女たちのことを助けようと、わたしは助走をつけて一気に上へとジャンプした。すると、わたしは左右に建てられている5階建ての校舎の屋上が見えるまで跳びあがる。心地よい風がわたしの周りを通り抜けていき、太陽の熱がジリジリと肌をとらえてきた。
“え?屋上が見える?”
それに気付いたとき、わたしはすでに重力に従って下まで落ち始めていた。
「なんでこんなに飛んでるのー!?」
半分泣きそうになりながら、わたしはディソナンスの頭を蹴って後ろに一回転し、無事地面に着地した。わたしはホッと胸をなでおろす。ディソナンスはというと、わたしが蹴ったおかげかバランスを崩し、後ろにゆっくりと倒れ始めていた。すると、剣を握りしめた彼女がわたしの隣を走り抜けていくのが見えた。そして剣を振り上げ、ディソナンスを傷つける。すると、ディソナンスが声を上げながら消えていった。何事もなかったかのように……。
ディソナンスが消えた後、わたしたちの変身が解除された。どっと疲れが出たのか、みんな近くにある階段に座り込む。わたしはホッとため息をついた。心地よい風がわたしたちの間を通り抜ける。すると、わたしに誰かが近づいてきた。あの人は確か、わたしに話しかけてきた人。わたしは顔を上げた。そして彼女の顔を見て固まってしまう。目の前にいたのは、この前わたしが大学の中で見た、わたしとそっくりな人だったから。
~Seguito~
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