第七十一話 正義のヒーロー
「誰が望んであんたを指名するのよ!」
「何を!」
「前王は病に伏したって話を聞いたわ! 仕方なくでしょう!」
「仕方なくとはなんだ! 貴様、私にたてつきおって!」
王は怒りを我慢できなかったのか、手を思いっきり振り上げた。
あ、これは叩かれるやつだ。
避けられないと悟り、痛みに耐える為とっさに固く目を閉じた。
しかし、いつまでたってもこない痛み。
すぐに来るかと思って目を閉じたのに、どうしたんだとうっすら目を開ける。
その時バサっと大きく何かを広げる音がしたと思ったら、ブワッと風が吹いた。
「な、なんだと!?」
驚いたように手をあげたまま、目を見開いて後ろへ下がる王の姿が目の前にある。
私の視界の端にはキラキラと何か光る粉のようなものが舞っていた。
これはなんだろう。綺麗な光の粉の正体が何か分からず、顔をあげた。
そこには純白で神々しく、目は怒哀の神獣と同じく赤く光りを放っていて、口にはいくつもの鋭い牙。守るかのように羽根で私を包んでいるドラゴンの姿があった。神と呼ぶにふさわしい。キレイ、と言葉をつい零してしまうほどの美しさである。
一瞬で理解した。このドラゴンは喜楽の神獣だと。
『セイゴさんが人の怒哀を司っている神獣様を、そのお兄様が喜楽を司っている神獣様を呼べる者です』
メイドのレオナさんの言葉が脳内に蘇った。
そうだ、セイゴさんのお兄さんが喜楽を司っている神獣を呼べるはずだ。なのに、なんで私のところにその神獣がいるのだろう。
「喜楽の神獣様だと……なんでこんなところに現れて……」
王が焦りながらそういうと、グルルルと喜楽の神獣は喉を鳴らす。
この神獣も怒っているのがわかった。
神獣も怒らせるんだ。こんな王痛い目に合わせなきゃ気が済まない!
その時、ふわっと体が浮いた。
「綾が言ってくれたおかげで、随分すっきりした」
聞こえて来た声は、先ほどよりも近く感じる。
ゆっくりと目を開けると、そこには光に照らされた綺麗なオレンジ色の髪があった。
「俺たちの言いたい事を言ってくれたのは嬉しいけど、王と言い争いをするのはどうかと思うぜ」
「セイゴさん!」
なんて正義のヒーローみたいな登場の仕方なんだ、かっこいい!
そしてこの体制は、お姫様だっこという奴じゃないですか!
今すぐやめてください! 恥ずかしさで体が動けなくなるから!
私の心の声を知ってか知らずかセイゴさんはそのまま、王を睨みつけた。
「こいつは物じゃねぇ、テメーのいいように使って言い訳がねぇんだよ」
「まだ、生意気な口をきくか」
「何か企んでいるとは思ったが、そんな下らないことだったとはな」
鼻で笑うセイゴさんは、王を小馬鹿にした様に言い放った。
でも、あれ? セイゴさんは、私たちよりも離れた場所にいたんじゃなかったっけ。それに、たくさんの兵に囲まれていた筈だし。
セイゴさんが元いた位置を見ると、そこにはやはりセイゴさんの姿があった。
セイゴさんが、二人いる?
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