第六十九話 神を

 異世界の者の、命を使う?


「私は最初からそのつもりだったよ。その神獣は、神獣と呼ぶにはふさわしくない。そいつは人間の心の隙間に入り込んで、悪巧みしているに決まっておる。見た目がそれを物語っておるわ。そんな神獣が村を守っているなどありえん。怒哀の神獣と呼ばれ人々の感情を食っているなど、嘘だろう。きっとそういう風に見せているだけだ。ならば悪さをする前に私がいっそこの世から消してしまおうとな!」


 何を言っているんだ。

 あんなに優しい神獣に対して、この王は何を言っているのか私には理解できない。


「我が国に村を吸収すればどちらか一方が消えるが、確実に邪悪な方を消すためには必要なことだ! そうすれば私は皆に感謝されることに違いなかろう! これでお前の村も私のものだ! この世界の者ではない一人の少女の命で邪悪な神が消える! なんと素晴らしいことか!」


 とても愉快に笑う王の姿を見て、私は空いた口が塞がらなかった。

 私がここに呼ばれたのは、私の命を使うため……?

 私の命で、村のあの優しい神獣を殺すため……?

 スズメさん、あなたはこんな事になるって予想していたから。だから、私を王様に渡さないで村へ連れて行ったのか。

 静かに頬に涙が伝うのが分った。

 私、生け贄になる為にこの王に呼ばれたのか。

 ただの身勝手なこの王の為の道具だったなんて、考えたくもなかった。

 スズメさんがいてくれて、心底ありがたく思った。何の事情も知らない私があのままこの王の元へ連れて行かれたなら、間違いなくセイゴさんの元にいる神獣を消す為に使われていたのだから。

 それなのに、私はセイゴさんが心配だからと勝手に私を道具として使おうとした人の元に戻ってくるなんて。

 自分は何も役に立たない人間で、唯一できることが生け贄だなんて。だんだん腹が立ってきた。


 フゥあなたの言っていた特別ってこのことなの? あなたはこのことを知っていたの? こんなの特別でもなんでもない。


「ふざけるな」

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