第六十二話 囮作戦


「ここは囮で門番を離れさせて、そのすきに入るのがいいだろう」

「なるほど、それなら怪我もしないね! じゃあ俺、囮するよー!」


 これから遊ぶかの様に楽しそうに言うドゥフトさんに、私は目を見開いた。

 囮になるっていったんだよ。なんでそんなに嬉しそうに言うの。簡単に決めちゃうの。

 そんなドゥフトさんにどうやって門番をはなれさせるか、とシュタインさんが内容を説明し始めていた。

 まるでなにも問題はないと話を進める二匹に、私は黙ってはいられなかった。


「なんで、ドゥフトさんが囮になるって話に決まったんですか! 囮の他にも何か」

「御手洗は、今すぐにその他にいい方法というやつがあるいうのか?」


 シュタインさんの言葉に、ぐっと詰まった。

 何も思い浮かばない。すぐに思いつかない自分がなんて情けないことか。


「大丈夫だよ綾ちゃん、これでも足は自慢だし! そもそも俺が城の中なんか入れる訳無いし!」


 確かにそうかも知れないが、でも囮というのはなんとも酷くはないだろうか。


「心配してくれてありがとう、綾ちゃん!」

「ドゥフトさん」

「そろそろ潜入をしよう。御手洗、中には俺がついて行くから安心しろ」


 うん、安心できない。声が怖い。あ、すみません、安心です、はい。


「そんじゃ二人とも、セイゴのことは任せたぜ!」


 ドゥフトさんはいつもの笑顔でそう言うと、勢い良く門へ向かって走り去った。

 ここから門まではさほどの距離はないから、私たちも走って向かってしまえば、門番がいない間に中に入れる。

 ドゥフトさんが行ってから少しして、ざわざわと門の周辺が騒がしくなって来た。


「なんだあの馬は!」

「あの馬、見た事あるぞ、スパーロの馬じゃないか?」

「なんだと! 捕えろ!」


 そういいながら、ドゥフトさんを必死に追いかけて行く数人の門番たち。

 その様子を見ていた私たちは、門番がいなくなったすきを狙って城へ侵入した。

 ドゥフトさん、本当にありがとうございます!

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