第五十一話 悲憎の代償
「なんで、ですか?」
「さぁな。でも無償に恨めしく思う。悲しみも憎しみも、神獣のおかげで今日一日は忘れられるだろうさ。良い事なんだ。みんなが笑顔に包まれていて、楽しそうに暮らす。こんな幸せな事はないことぐらい、俺でも知ってる。この村に嫌な奴なんていない。だけどな、そう感じるんだ」
ゆっくりと目を細めた。
「あいつが、村の人たちのそんな感情を食べた後のこの宴で、毎回思う」
その表情は、あの舞台の上でみたセイゴさんそのものだった。
でもこの話をきいて、その表情の意味を理解した。
彼は心優しいのだ。神獣の事を思っていた、だからあんな泣きそうな顔をしていたのだと。
「セイゴさんは、優しいんですね」
「やさしい、か。俺がやさしいねぇ」
む、どこか不満そうな声色だな。
「俺はそうは思わないさ。まぁ、自分ではそう感じないのは当たり前かもしれねぇけど……本当に優しいのは神獣さ」
「え、あの、今日見た神獣が……」
「あいつの見た目があぁなったのは、人々の怒りが溜まりに溜まったからだ。憎悪ってのは黒い塊で出来ている。それを食料として食べ続けているからこそ、体が真っ黒に染め上がってしまったのさ。それだけで、あいつがどれほど優しいかわかるってもんだ」
端からみたら、ただの化け物であろうあの神獣には、そんな裏話があったのか。
それをきいて納得した。確かに、あの見た目は人を恐怖させるものがある。でもその原因が人の感情を食べたから。人の負の感情がどれほどなものか、神獣はその姿で表していたのだ。
フゥの言っていたことが理解できた。
優しいから、人のためにやった結果が自分の身に現れてしまった。
多分、そんなことしなくても良かっただろうに、自らを差し出した。
なんて優しい神獣だろう。
きっと村の人たちはこのことを知っているのだろう。そんな神獣だから感謝しているに違いない。そういうのがよく分からない子供たちには怖がられているけど。
「だから俺は、あいつをバカにする奴がいたら、誰であろうと容赦するつもりは微塵もない」
眉間に皺を寄せて、何かを決意するようなそんな表情のセイゴさんは、素直にカッコいいと思えた。
「やっぱりセイゴさんは優しいですよ。神獣をそんなに思っているんですから」
「あいつはな、俺が小さい時に現れたんだ。兄貴ともはぐれてひとりぼっちになった時に、俺の元へ出て来てくれた。それからはいつも一人じゃないって思える様になったな」
へぇ、セイゴさんと神獣はそんな出会い方をしたのか。
「だから感謝している。あいつのおかげで、今の俺がいるって言っても過言じゃないからな。だからアォウル国にこの村はやれない」
「それって、なにか関係があるんですか?」
「……国に村が吸収されたとしたら神獣はその存在の意味がなくなり、消滅する」
思いも寄よらない言葉に絶句した。
「国や村に存在する神獣は多く存在できないんだ。最低でも二匹。それ以上いると調律が保てなくなる」
「じゃあ国が拡大の為に村を国のものにされたら」
「この村の神獣の二匹のうち一匹は消える」
周囲が静まりかえっているかの様に、なんの音も聞こえなくなった。
セイゴさんの言葉が、よくきこえた。
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