第四十七話 これが神獣なのか
声が広場中に響いたその瞬間、セイゴさんの真横に黒い渦のようなものが現れた。
それを見て寒くもないのに鳥肌が止まらず、私は腕を手で摩った。だが目が離せない。それは恐怖心からくるものなのか、好奇心からくるものなのか、私には全く分らなかった。
黒い渦を食い入る様に見続けていると、その中からズッと何かを引きずるような音が聞こえて来た。
そして、その音に気を捕られている時、なにかがセイゴさんの隣にいつの間にか現れたことに気付く。
周囲の子供が大声をあげて泣き始めた。誰かが声を上げて、叫んでいるのが聞こえる。
大人たちはさもいつも通りのことだと、そちらに目も向けず、ただ現れたものを見つめていた。
子供が泣くのも無理は無い、私だって口から声がつい漏れてしまったのだから。私からしたら、何も言わない大人の方が不思議なくらいだ。
私たちの目の前にいるそれは、全身真っ黒で六つもついている目は赤く光りを放っている。口にはいくつもの鋭い牙も見える。
これはあの門で見た濃い色のドラゴンと瓜二つだ。
その姿を見た私が最初に思った事は、まるでゲームの中や物語の中で語られるラスボスと敵のような容姿だということ。
本当に、神なのかと疑うくらいに邪悪な見た目をしている。
神様のように高貴な感じではなく、あれじゃあまるで邪神と言った方がぴったり当てはまるのではないだろうか。
これが神獣なのかと疑ってしまう。
「怒哀の神獣様!」
「現れてくださった!」
周囲の大人たちの歓声が耳に聞こえて来る。
なんで、こんな見た目のドラゴンをこの人たちは歓声を上げて喜んでいるのか、私には到底理解が出来ない。
そんな歓声を浴びている怒哀の神獣と呼ばれた真っ黒なドラゴンは、口を大きくあけた。
「皆の者、己の厄を、憎しみを、悲しみを、彼の者に捧げよ!」
セイゴさんのその言葉が合図なのか、周囲の人たちは歓声をやめて静かに目を閉じた。
私も遅れをとりながらも、目を閉じた。
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