第三十九話 収穫祭開催

 収穫祭当日がやって来た。

 開催する場所は、門から見おろした時に見えた小さな町。

 ツバサさんに言われるがまま、昨夜必死に選別作業をした野菜たちを、両手にたくさん持ってその町を訪れた。

 今日は門も完全に閉まっていて、開くことはまずないらしい。

 なので城の者総出でここにいる。

 横をみると、いかにも気怠そうなセイゴさんと、うきうきと上機嫌なツバサさんの姿。

 私の後ろには、城内にいつもいるメイドの二人が嬉しそうな顔をして歩いている。

 もちろん皆さん両手にいっぱいの野菜を抱えて。

 指定場所があるのだとか、先頭をきって歩いていくツバサさんに遅れないようについていく。

 歩いていると、準備をしている他の露店の方々に出会うたびに話しかけられた。


「お嬢さん、あとでうちにきな! 上手い野菜炒めを試食でだしてるぜ!」

「うちの焼き魚は、今朝捕って来たばかりだから味は保証するよ!」

「ジューシーな果実ジュースもあるぜ!」


 ここの町の人は、みんなフレンドリーみたいだ。

 見ず知らずの私にまで話しかけてくれるのだから、そうに決まっている。


「セイゴ、お前ちゃんと野菜食ってるか? 肉だけじゃだめだぞ」

「うるせぇ、ツバサに無理矢理食わされてるから大丈夫だよ」

「しばらく見ない間に大きくなって!」

「まだ成長期が続いてるんじゃねーの」


 なんか、セイゴさんに対してはみんな親戚みたいな反応なんだね。

 それに比べてツバサさんは。


「あらツバサくん、今日の野菜は立派に出来上がってるじゃない!」

「もちろん! 今回のは自信作がかなりありますよ!」

「でもツバサちゃんこの野菜、ちょっと育ちが悪いみたいね?」

「それがなかなか育てるのが難しくて、今度ご指導いただけますか?」


 うん、農家の人たちの会話だ。安心安定というか。もう農家の主夫と言わんばかりのこの会話に、私は和むよ。

 でも家の陰とか店の陰、窓からこちらに視線を感じる。

 多分若い女の子たちだろう。伺う様に目を向けてみると、ツバサさんとセイゴさんを見て、頬を染めたり嬉しそうに騒いだりと様々な反応を見せている。

 二人ともイケメンだから、きっと一目見ようと集まっているんだろうな。

 でもこの二人、異常なめんどくさがりと、農業が趣味の人なんですよ? 皆さん知ってますか?


「綾様、早く行きましょう。お祭りが始まってしまいます」


 その言葉にハッとして、私たちは足早に目的地へと向かった。

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