称賛の代償にその写真は悪魔を招く
母親に紹介?まだ早いです
「ところでさ、今日は午後の練習イマイチだったね?」
そりゃ、誰かさんがあんなこと言うからじゃないですか。
「お昼に意味ありげな言い回しをするからだよ」
「あの程度で動揺するとはまだまだ修行が足りないわね」
「いや、そりゃ動揺するでしょ」
「昨日のことでぼっこぼこにされると思った?」
「そういう可能性もあるかなとは思った」
「ということは、後ろめたさはあったんだ?」
「まあ、いきなりだったし、イヤだったかもなとは……」
「そういうのは先に考えるものじゃない」
「俺もとっさのことで。もし不快な思いをさせたならゴメン」
「ゴメンで済むことだと思ってるの?あんなことしておいて」
俺が首をすくめたとたん、笑って言う。
「もうこれくらいにしておいてあげる。別に怒ってなんかないわよ。驚きはしたけどさ」
「それなら良かった」
駅に電車が止まりホームに降りる。
「付き合ってるって言っても特に何が変わるのか実感は無いんだけどねえ。自分から榊原くんと付き合い始めました~、って言うものでもないじゃない」
「ということは、返事はOKってことでいいの?」
「えっ?」
何か俺変なこと言ったか?まだ返事貰ってないし。
「昨日のあのシチュエーションでお断りなわけないじゃない?」
「いや、だって、あの後、すーって門の中入っちゃったし……」
はあ、と片倉さんが大きなため息をつく。
「意外と分かってないんだね。返事がノーなら押しのけるなり、ひっぱたくなりするわよ」
言われてみれば、そりゃそーだ。
「なーんだ。それでか。昨日はあんなだったのに、今日は随分とよそよそしいなあと思ってたら、まだ返事保留だと思ってたんだ」
ははは、と力なく笑うしかない。昨日の夜の煩悶はいったい何だったのか。
「送ってもらってありがとう」
「いや、おかげで色々話してすっきりしたし」
「ちょっと寄っていきなよ。冷たい飲み物でも飲んでって。母にも紹介するよ」
明らかにたじろぐ俺を見て、片倉さんはあきれた顔をする。
「せっかく、私のお付き合いしてる相手って、紹介できる機会なのに」
「いや、その……」
「なーんだ。昨日は颯爽としてたのにだらしないなあ。まあ、今日は許してあげる。また近いうちにね。それじゃ、また明日」
本気なのか、からかっているのか、まったく驚かされるぜ。今時、彼氏を母親に紹介するなんてしないだろ、普通。彼氏か。返事はOKだったんだ。やったぜ。いえーい。いてもたってもいられず、道の真ん中でジャンプする。向こうから歩いてくる日傘をさした中年の女性がぎょっとした顔をして、俺を避けるように脇を通り過ぎて行く。スンマセン。暑さのせいで頭のネジが2・3本取れたと思われたのかもしれないな。浮き浮きした気分で家に向かった。
「ほーん、それじゃ告白にOKをもらったのか。そりゃめでたい」
「それもこれも師匠のお陰です」
そう言って頭を下げる。
「でも、わざわざ来なくてもいいのに」
チャットで話をしたいと言ったら、ちょっと待ってろと言って3分。によによした顔の”ヨッシー”さんと向き合っている。
「いやあ、お前がどれだけ鼻の下伸ばしているのか、見逃す手はないだろ」
「別に伸びてないと思うけど」
鼻の下を手で強くこする。
「しかし、良くまあ、お前がそんなこと言えたな。たいしたもんだ。これならファーストキスもいけるな」
「いや……」
「なんだよ。ここまで来たんだからさあ、あとちょっとだろ」
「ていうか、実はもう」
「あ?なんだ、もう済ましたのか。ほうほう。こりゃ驚天動地だなあ。そこまで大胆だったとは」
「なんというか、成り行きというか、勢いで」
事情を説明する。
「そうか。そりゃあ、相沢って子に感謝しないとな。結果論だが、2人の背中を押してくれた天使じゃないか。まあ、お前への恩返しってところか。本当のところは本人に聞かなきゃ分からんが。とりあえず、啓太育成ミッションレベル1はクリアだな。めでたいめでたい」
「まだレベル2以上が残ってますのでよろしく」
「どこまで面倒見させるつもりだ?」
「あ、めーわくならいいです」
「そうは言わんが、ほら、俺もいつまでこんな宙ぶらりんの状態か分からんからな。ある日突然消えるかもしらんし」
「なんで急にそんなこと言い出すのさ」
「お前と知り合ってから色々思うところはあったんだが、一応の区切りがついたからな。今後はさ、お前に何かあってもその子が支えてくれるだろ。とりあえず安心かなって」
「いや、でも、俺はまだヨッシーさんを見習いたいと思ってるんだけど」
「ああ、それは構わんけど、俺も永久不滅ってわけじゃないからな」
「変な話だけど、今のヨッシーさんてデータなわけだよね。コピーしてバックアップってのはできないの?」
「分からん。もう一人の俺とどっちがオリジナルかって血みどろな闘いとかになっても嫌だからな。それにそこまでこの世に執着する理由もないし」
「そっか」
「まあ、しばらくはお前の側にいて恋愛シミュレーション楽しましてもらうよ。次のステップは当分先だろうけどな」
「なんだよ次のステップって」
「だいたい想像ついてるくせに、とぼけるなよ。もっと濃厚なスキンシップってやつさ。ちなみにお前が見てるようなビデオは参考にすんなよ。あんなの男のファンタジーだからな」
なんだよ、さすがにこのPCで変なもの見たら何言われるか分からないと思って見てないのに。まさか。
「ヨッシーさん、まさか、スマホにも何か仕掛けてるんだな。さすがにそれはひどくないか。俺のプライバシーないも同然じゃん」
「いや、俺だってそこまではしてないぞ。人として超えちゃいけないラインはあるからな。まあ、しかし今の発言は認めたようなもんだな。けけけ。まあ、恥ずかしがることはないだろ。興味あるお年頃だし、ネットに山ほど転がってるんだからな」
くそう。誘導尋問に引っかかってしまったか。
「ま、当面はそんなことする余裕もないだろうし、その辺はおいおいレクチャーしてやるよ。それよりも、同じクラスの藤川愛莉のことなんだがな、お前どう思う?」
なんでここに藤川が出てくるんだ。
「どう思うって?どういうこと?」
「ああ。ちょっと漠然とした聞き方すぎたな。その子の身体に危害が加えられたりする恐れがあると知ったらどうする?」
「そういうことなら、放っておけないかな」
「からまれて、メンドクサイんだろ」
「それほど実害があるわけじゃないし、まあ、メンドクサイとは思うけど、危害が及ぶとなればね。まあ、藤川相手じゃ俺にできることはあまりなさそうだけど。何か知ってるの?」
「先月から世間を騒がしている女子高生殺害事件あるよな。その犯人が次の目標にその子を狙っている可能性が高いと俺は考えている」
は?いきなりなんだよそりゃ。
「なにか証拠はあるの?だったら警察に言えば」
「証拠はないんだ。だから警察は頼れない。そもそも俺は存在しないんだからな。匿名の通報なんて放置されるのが落ちさ」
「じゃあ、どうするのさ」
「本人に警告する」
「俺は連絡先知らないよ」
「そうだろうな。誰か知ってる相手に頼めないか」
「俺が学校で友達ほとんど居ないの知ってるのにそれ聞く?だいたい俺の辿れる伝手で言ったところで聞く性格とは思えないんだけど」
「だよなー。俺の直接の警告もガン無視されたしな」
「直接ってどうやって?」
「Guessでメッセ飛ばしまくった。サイコなメッセージ考えるのも疲れるよな。あれだけ気色悪いメッセージが並んでると感覚マヒしてくるんだろうけど」
「なにやってんだよ」
「本人が警戒するなり、警察に相談するなりしてくれたらと思ったんだが、ぜーんぜん気にしちゃいないな。リアルな警告なら少しは真剣に取り合ってもらえると思うんだが」
「俺に思いつくのは同じクラスの加藤ぐらいだよ。そいつ剣道部だからさ、片倉さんのお兄さん経由でならなんとか伝言できるかも。でも、その前にヨッシーさんが危機が迫ると思った理由教えてよ」
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