この人何言ってんの?

<ヨッシーさん、話がある>

 そういって、夜チャットルームに誘った。

<ヨッシー:なんだい>

<sbk:ヨッシーさんにも妹いるっていってたよね>

<ヨッシー:うん>

<sbk:仲いい?>

<ヨッシー:ああ、そうだな。なんだ藪から棒に>

<sbk:妹ってかわいい?>

<ヨッシー:そうだな、控えめに言ってマジ天使>

<sbk:妹に何かあったら、どうする?>

<ヨッシー:何かって?>

<sbk:困ったこととか>

<ヨッシー:そりゃ全力で助けるだろ>

<sbk:本人が黙ってても?>

<ヨッシー:そうだなあ。ただ、うちは割とあーしろ、こーしろ、はっきり言うタイプだからなあ>

<sbk:そっか>

<ヨッシー:なんだ、何か妹さんのことであったのか?>

<sbk:うん、ちょっとね>

<ヨッシー:話してみろよ。相談乗るよ>


 自分で言い出しておいてなんだが、ここにきて逡巡していた。見ず知らずの相手にここまで話していいのか。確かに”ヨッシー”さんはいい人みたいだけど……。

<ヨッシー:どうした?>

<sbk:あのね。今までも色々と助けてもらってるのに、こんなこと言うのはおかしいんだけど>

<ヨッシー:知らない人にあまり話をしていいのかってことか?>

<sbk:うん。ヨッシーさんはいい人だと思う。でも、どこの誰か知らないし、自分だけのことならいいんだ。でも妹のことまで言っていいのかなって>


 返事がない。

<sbk:ごめん、気分悪くした?>

<ヨッシー:いや。まあそうだなって俺も思う。じゃあ、そうだな。これ見てくれるか。俺の仕事のホームページなんだけど>


 リンクが張ってあった。リンク先のページを見てみる。ホームページ作成、SEO対策、ECサイトコンサルティング、よろず相談承ります。まずはフォームでお気軽に依頼を、MYシステムズ。一応きちんとした会社のように見えるけど。サイトの会社情報を見ると、代表取締役は山田義夫、つまりヨッシーさん?。問い合わせ先の住所は都内の私書箱だし、電話番号無し。なんかちょっと変な感じだ。せっかく見せてもらったけど、これで信用してよ、といわれてもなあ。


「だよなー、まあ、これで信用しちゃうのはヤバイよな。まあ、リンク踏んでる時点でアウトなんだけどさ」

<sbk:ヨッシーさん、これじゃあ>

 文字を打ちながら愕然とする。この声は?


「ヨッシーです。お初にお目にかかります」

 後ろを振り返ると、精悍な顔をした大柄の壮年の男性がいた。え、え。誰?

「だから、ヨッシーでーす。あ、悲鳴とかあげないでね。心配しなくても大丈夫だから。基本的に人畜無害だし」

 ごくりと唾をのみ込む。


「誰だよ、どうやってここに入ってきた?」

「だからいつも遊んでるヨッシーさん。どこからって?んー、まあ信じられないと思うけど、光ファイバーケーブルからみたいな」

 といって、笑う。なに言ってんだ、こいつ。


「まあ、そんなことは置いといて、ヨッシーさんて誰って言うから、出てきたんだけど。これで納得した?」

 いや、するわけねーだろ。なんなんだよ一体。

「あのさ。俺はいわゆる幽霊ってやつ。もう死んじゃってるの。ね、安心でしょ。だからさ、sbkさん落ち着いて。な」

 そう言って、害を加えるつもりがないことを示すつもりか手を広げて見せる。ああ、もう訳わからねえ。ヴァーチャルリアリティってやつか。


「で、幽霊が何の用だよ?」

「え?相談したいことがあるけど、の人だと信用できないっていうからわざわざ顔見せに来たんだけど、迷惑だった?」

 自称ヨッシーさんは傷ついた顔をしてみせる。そんな顔されるとすごく悪いことをしている気分になる。


「えっと、ヨッシーさん、それとも」

 モニターにちらりと視線を走らせて、

「田中義夫さん?」

「ヨッシーでいいよ。それ偽名だし」

「偽名?」

「ああ。本名書いちゃうと色々とね。それで、何かな?」


「僕が見ているのは何?」

「俺の姿だよ。思ったよりイケメンで驚いてる?」

 そうじゃない。あ、でもこのふざけた感じはヨッシーさんぽい?


「いや、僕は何を、じゃなくて、どうして見えてるんだ?」

「ああ、そういうことか。幽霊って、人の脳波に干渉して幻覚見せることができるの。昔からよく幽霊見たって話あるでしょ。ちなみに声も聞かせられるよ」

「どうやって?」

「大脳皮質の視覚野に微弱な電気信号を、ってそんな話を聞いてもしょうがないよね?幽霊はそーいうことができるってことで」

 できるってことで、と言われてもな。


「いいじゃん、実際に見えてるんだし。それよりも大事な妹さんの相談は?」

「ちょっと待って、ヨッシーさんを見たけど、まだ誰か分からないよ」

「幽霊にどこの誰か分からないっていうのはあまり意味がないと思うけど」

「そうだけどさ。やっぱりまだ良く分からないよ」

「まー、そうだよな。じゃあ、仕方ない、出血大サービスで3つまで質問に答えちゃおう。個人情報は大事だけどな。友達だから」

 なんかすごく恩着せがましい。


「誰なの?というか生きてた時の名前は何で、どこで、何してたの?」

「いっぺんに3つか。それでいいの?」

「いいの、って?」

「いや、ほら俺って実は結構有名人だったりするから、名前聞いただけで、あとの2つの質問いらなくなるかもって」

「じゃあ、生きてた時の名前を教えて」

「うーん。なんか恥ずかしいな」

 自分から言い出しておいてなんだよ。


「最上出羽守だ。今風にいうなら最上義光ってとこかな」

 どうだって顔をしている。えーっと……。

「あれ?ひょっとして知らなかった?」

「知ってるよ。出羽国の戦国大名でしょ」

 とたんにうれしそうに、にかーっと笑う。


「いやあ、流石だね。俺が見込んだだけのことはある。小学生にはちょっと難しかったかなあって思ったんだけどね。北条早雲知ってるくらいだから、俺の事知ってても当然だよな。うんうん。で、質問その2は何かな。気分いいからなんでも答えちゃうぞ」

「えーっと、戦国大名の幽霊さんがこんなとこで何やってんの?」

「何って、友達がなんか悩んでてあんまり遊んでくれなさそうだから、相談乗ろうかな、って思ったら、顔見知りじゃないっていわれたから、顔見せに来た」

「いや、他に何かすることあるんじゃない?昔の偉い人なんだよね?」

「偉い人ってほどでもないけど、どうだろ。どうせもう死んでるし、生きてた時何だったかってあまり関係ないでしょ。あ、これで3つね。満足した?」

「聞きたいことありすぎて何がなんだか」

「まあ、そうだよね。驚くよね。でも、そこ追及してると長くなるし、そこはまた今度ってことで、本題に戻らない?」

 本題?ああ、あまりに衝撃的過ぎて何を話してたのか忘れるところだった。

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