第72話 部活見学者 竜見十魔子
「えー……。と、言うわけで、見学に来た竜見十魔子さんです」
「よ、よろしくお願いします……」
夏樹に適当な紹介をされ、十魔子は引き攣った笑みを浮かべてお辞儀をした。
部員の女の子たちは、かつての自分を思い出すように微笑む。その中から1人、三つ編みを解いたかのように髪が波打っている女子が近づいてきた。秋山冬美だ。
「よろしく。わからない事があれば、なんでも聞いてね」
そう言って、手を差し出してくる。
「!?」
十魔子にとっては予想外の行動だ。
もし、冬美がメフィストに取り憑かれているのなら、十魔子の事は知っているはず。当然、避けようとするだろうし、身体に触れさせるなどもっての他だ。
もうメフィストの霊気は知っているのだ。いくら隠れるのが上手いからといって、身体に触れれば、取り憑いているかどうかくらいはわかる。
今の十魔子には、それが出来るだけの自信があった。
「よろしく」
差し出された手を握り返す。
その瞬間、掌に感覚を集中し、冬美の霊気を読み取る。
人体から発する霊気、その霊質はその人の精神的な個人情報の塊と言ってよく、霊気を読み取る事で、相手の精神状態を調べる事ができる。さらに精細に読み取れば、思考や記憶も把握できるが、それほど精密に読み取れる能力は先天的なもので、十魔子には不可能だ。
しかし、冬美の記憶や思考を読み取る事ができなくても、悪魔が取り憑いているのなら、こうして直に触れる事で、その気配を掴む事ができるはずだ。
「……」
だが、十魔子が握っているその手からは、悪魔特有の邪悪な気配を感じとる事ができなかった。
(白かしら……?)
十魔子は以前の冬美の霊質を知らない。なので、彼女が以前とどうちがうのか、霊的にはわかりえないのである。
少なくとも、冬美が発する霊気は一般的な女子高生のそれであった。
「どうかしました?」
目の前で冬美が首を傾げる。
「あ、いえ、すみません!」
十魔子は慌てて手を離した。
「じゃあ、とりあえずいつもどおりにやりましょうか。1人をモデルにして、みんなでスケッチするの。今回のモデルはわたし。可愛く描いてね」
冬美は説明しながらスケッチブックと鉛筆を十魔子に手渡し、席へ案内する。
「は、はぁ……」
十魔子は生返事をしつつ席につく。
(まぁ、まだ時間はあるし、適当に描きながら情報を集めましょう)
今後の方針を決めて、十魔子はスケッチブックを開いた。
(……?)
ふと、掌を見てみると、絵の具が微かにこびりついていた。冬美と握手した時についたのだろうか?
だが、ここは美術室だ。そういう事もあるだろう。
十魔子は気にせず、鉛筆を握った。
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