第57話 黄麻台小学校の戦い

 健作がダッシュから勢いをつけて飛び蹴りを放った。


 ベルフェゴールが素早く手を引っ込めたので腕を扉に挟むことはなかったが、健作の蹴りが扉に炸裂し、仮設トイレが後方に飛んで倒れた。


 健作は仮設トイレに飛び乗って扉を開けようとドアノブを掴んだが、内側から押さえつけられているのか、ビクともしない。


「くそっ!」


 健作は舌打ちし、仮設トイレの底部を掴んで持ち上げ、地面に数度叩きつける。


 しかし、中からはなんの反応もない。ダメージを与えているのかもわからない。


「うおりゃぁぁぁ!」


 健作は雄叫びを上げ仮設トイレを大きく投げ飛ばす。


 仮設トイレは数回バウンドし、校庭の真ん中で横倒しになった。


 健作は木刀を逆手に持って駆け出す。


 中の悪魔ごと串刺しにするつもりだ。


 助走をつけ、天高く跳ぶ。


 そして、眼下の仮設トイレに切っ先を向け急降下。


「!?」


 分霊人の危機察知能力が反応、とっさに木刀を右に振る。


 バシャン!


 砕ける水音。


 健作は反動で左手に着地。新校舎の前だ。


 木刀には泥水のような黒い液体が付着している。汚水のような異臭がする。


 健作は木刀を振って汚水を振り払い、攻撃が来た方向を見据える。


 校門の前に黒い水たまりからある。


 そこから水で出来た黒い腕が生えてきた。


 腕は水たまりと共に仮設トイレのそばに近寄って、仮設トイレを掴んで起こす。


『フフフ、なるほど。蛮族のように荒々しくも、どこか精錬されている。良い訓練を受けたようだ。楽しませてくださいよ!』


 黒い腕が人差し指を健作に向ける。


「!?」


 次の瞬間、健作の背後にある新校舎の窓が砕け散った。


 健作は上に跳んで二階の壁にへばりついていた。


 黒い腕が指先を健作に向ける。


 健作が体一つ分右に移動する。


 健作のいた場所が砕けて、健作の顔に汚水が飛び散る。汚水の球を高速で発射しているのだ。


『さぁ、どんどんいきますよ!』


 黒い腕が手を広げ、五本の指先からそれぞれ水球が発射される。


「わっわっわっ!」


 健作がちょこまかと壁面を動き回って水球を避ける。健作のいた地点が正確に穿たれていく。


「くそっ!」


 堪らず、健作は壁面を駆け出し旧校舎へと向かった。彼を追うように壁面に次々と穴が開く。


 地上はいつの間にかドス黒い水に覆われ、海のように波打っている。もはやベルフェゴールの領域だ。落ちればなにをされるか。


 健作は新校舎の壁を全力で走り、大きく跳んで旧校舎に移る。


 次の瞬間、一際大きい水球が健作目掛けて飛んできた。


 ドゴォ!


 咄嗟にショベルカーに飛び移って事なきを得たが、旧校舎は半壊してしまった。


 まだ十魔子が中にいるはずだ。健作は青ざめた。


「しまった。十魔子さん!」


 慌てて旧校舎に飛び移ろうとした時、ちょうど目の前の二階の窓が開き、十魔子とおかっぱの少女が顔を出した。

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