第9話 tribute と wedge4
要は「自分の気持ちに正直でいてほしい」ってことなのだろう。
たぶん小豆のことだ、ずっと前から俺の気持ちを知っていたのだと思う。俺の気持ちを知っていてもアプローチを続けていたのだと思う。
今まで香さんやあまねると二人っきりで接することも多々あった。撒いたスイカ理論からか、対抗心はメラメラでしたけども。
それでも俺が二人と接することに嫉妬や嫌悪感は抱いていなかったし、むしろ嬉しいように思えていた。
それは――
それを俺が望んでいたから。俺が自分で選んでいたから。自分の意思で行動していたからなのだろう。
だけど今の状態で小豆を選ぶってことは。
俺が望まない。自分で選んでいない。自分の意思に反した行動なのだと妹は感じているのだろう。
もちろん、妹を選ぶことに俺は後悔なんてしていないし、打算や自己犠牲で選んでいる訳でもない。純粋に小豆と付き合いたいと願ったことではある。だけど。
俺は自然の流れで妹を選んだのではない。二人への想いに蓋をするって言う「覚悟を決めて選んだ」のだ。
それは望んでも選んでもいない。自分の意思に反した行動だと言えるのだろう。
俺達兄妹……いや、智耶や親父達を含めた俺達家族は、常に「自分の正しいと思える行動」をしている。
それは一般論の「間違っているとか、間違っていないとか」じゃない。
自分にとっての「正しいか、正しくないか」で行動しているんだ。
だからこそ、俺は妹のアニオタを一般論の「間違っている」ではなく、自分の「正しい」によって肯定したのである。
そう言う意味で考えても。
はっきり言って、俺は今の自分の行動が正しいとは思っていない。妹に正しいと思われるとも思っていない。
そもそも逆の立場だったら、妹と同じように俺でも確実に断っていると思うから。
……妹に他の好きな相手ができる。そんな事実を前にすれば、みっともなく落ち込んだり、相手に嫉妬するような仕草を取るかも知れないが。
それでも、妹が心から笑っているのならば俺も笑えるって思っている。
だから自分が納得できる答えを出してほしい。蓋をしてまで俺を選んでほしいとは思っていない。そんなのは、俺の愛している小豆ではない。
自分の信念。正しい道を歩き続ける妹を、俺は好きになったんだ。
俺にとっては妹の心からの笑顔が一番大事なのだから。
……きっと小豆も同じなんだよな。
要は、俺の幸せが妹にとっても幸せ。そんな考えなのだろう――。
妹の心意を理解した俺は、納得の笑みを溢しながら言葉を紡いでいた。
俺の表情で理解したのだろう。満面の笑みを浮かべて返事をする妹なのであった。
◆
「さてと――」
「ねぇ~?」
「……なんだ?」
俺の思い描いた結末とは違ったけれど……俺のリベンジも無事に解決したと言えるだろう。
今俺の視線の先に映し出される妹の姿には。
さっきまでの作り笑いなんて存在しない。いつもの笑顔を浮かべる小豆が映る。
もう大丈夫。完全に終わったんだよな。
妹の姿から、そう確信した俺は……本当の意味でのエンドカードを迎えるべく、家に帰ろうと妹へ声をかけようとしていたのだが。
妹が俺の言葉を遮り言葉を紡ぐのだった。
そんな妹に怪訝そうに答える俺。
いや、もう帰ろうよ? だって、外は真っ暗なんですから早く帰らないと?
小豆さんは可愛いんですから、不良さんや変質者さんに襲われたら大変じゃないですか……相手とお兄ちゃんの卒業が!
いやいや、お兄ちゃん……小豆さんが襲われそうになっていて手加減なんて無理なんですからね?
なんとか退学を免れたって言うのに、わざわざ自分から退学に陥ることもないのですよ。と言うより、お腹減った……。
既に工場内は周囲の建物による光源が差し込む程度の薄暗い空間へと変化していた。
全員が帰ってから、けっこう時間が経過していたんだな?
俺は漠然と周囲を見回しながら、かなり時間が経過していたことに驚いていた。
自分的には数分程度の経過だと思っていたのだが、チラッと携帯を眺めると一時間くらい経過しているようだ。
時間を確認したからなのか、途端に自己主張を始める俺の腹。まぁ、今回ばかりは君の主張を認めよう。
だから一刻も早く帰りたかったのだが。
「ところでぇ~、なんで急に私と付き合おうって思ったのぉ~?」
「――ッ!」
「だって、今まで私が迫っても全然付き合おうなんて考えていなかったじゃん?」
「……いや、その、なんだ……」
「二人のことは知っていたし~、私は『そんな』お兄ちゃんが好きだから問題なかったんだけどぉ~」
「……」
「急に私を選ぶからビックリしちゃったんだよぉ~。お兄ちゃんの心に二人が『いる』のは変わらないはずなのに私を選ぶなんて、お兄ちゃんらしくないしねぇ? ……なんで?」
「……いや、だってよ? お前の……その……ファースト……キス……を、奪っちまったんだから、さ……」
「……ん?」
妹の紡いだ言葉に驚きの表情を浮かべる俺。いや、今更じゃないですかね?
――結局、付き合わないのだからバカ正直に答えなくても問題ないよな……などと一瞬思ったのだが。
俺は小豆のファーストキス……あくまでも俺調べ。を奪った責任がある。いや、俺は責任を取る気まんまんだったのですけどね?
付き合わないからと言っても、さすがに奪ってしまった事実が消える訳ではない。いやいや、むしろ思い出として心に刻みたかったのですがね。
さすがに「なかったことにしろ」とは言えないですよ……。いやいやいや、さすがに自分の記念すべきファーストキスを「なかったことに」するなんてイヤです!
……まぁ、俺の感情など無視しておこう。
それに。
俺は別に小豆を諦めたつもりはない。いや、可能性の話だけどな。それでも可能性はあるってこと。
つまり、もしも妹を選んだ時に。
ここで真実を伝えられない俺が正直に妹と向き合えるのか。負い目を感じずに告白ができるのか。
そう考えた結果、俺は正直に伝えることを決断していた。
妹の純粋な好奇心を映し出す瞳に、少し恥ずかしくなりながらも困惑ぎみに答える俺。
そんな俺に向かってキョトンとした表情を浮かべながら、小豆は疑問の声を俺に返すのだった。
「あっ、い、いや……別に奪ったことも付き合うことも、俺が望んだことだぞ? 奪ったから付き合うとかじゃ、ないからな?」
「そ、そうなんだぁ……えへへ~♪」
俺は妹の表情に「奪ってしまった責任として告白したって思われたのでは?」と感じていた。
だから慌てて否定しておいたのだ。
そんな俺の言葉を受けた妹は、本当に嬉しそうに茹で小豆な満面の笑みを浮かべていた。
いや、完全なる自業自得だって理解しているのだが今だけは、その笑顔はやめてくれ。
付き合えない現実を前に、お兄ちゃん泣いちゃうかも知れないからさ……。
とりあえず自業自得なのだし泣く訳にもいかないので言葉を繋げる俺。
「ま、まぁ、その、なんだ? ……確かに俺としては付き合いたいって願ったから奪ったんだけど……お前の『はじめて』を奪ったから、俺は責任を取るって言ったんだよ」
「……へぇ?」
俺の言葉を受けて、再びキョトンとした表情で相槌を打つ妹。
さっきの笑顔で泣きそうになっていたからなのだろうか。俺の脳裏に否定していた考えが浮かび上がってくる。
俺は、意を決して恐る恐る妹へと訊ねるのであった。
「お前……ファーストキスじゃ、ない、のか?」
「ん? ……」
「……」
俺の問いに表情を変えずに疑問の声を発していた妹。
そして視線だけを上へと移動しながら何かを考えていた。
だけど。
「――そ、そう! ファーストだよファースト! ファストじゃないんだよぉ!」
「……」
何かに気づいたらしく突然俺へと視線を合わせると、慌てたように捲し立てていた。いや、知っとるから。
と言うより拒まれなかったことを理由に、けっこう時間かけていたから早くないのですがね……。
なお、マク●ナルドのような店は『ファストフード』である。ずっとファーストだと勘違いしていたけどさ。
とは言え、ファストの綴りをファーストと発音したり、カタカナ表記されたりもしているので勘違いされやすいのだが。
『最初』とか『一番』って意味の
まぁ、この説明は一番じゃないんだから、速く先に進めるか……。
「も、もぉ~、ファーストすぎて……ファーストキスから始まる二人のラブヒストリーなんだよぉ~」
「……」
「ここここのディスティニーにマジックをかけた……お兄ちゃんが突然現れたんだよぉ~」
「ははは……」
いや、速く進めることには賛同するが……少しは落ち着け!
うむ、悲しい事実だが……ファーストキスから二人の恋のヒストリーは始まらなかった。お前が断ったんだけどね? 自業自得なんだけどさ。
そして別に俺は運命に魔法をかけた覚えはないし、そもそも数時間前からお前の目の前にいたのだがな?
まぁ、言葉が歌詞なのを知っているから意味不明ではないのだが。
残念なことに妹の言動で……この歌詞がOPになっているアニメ作品に登場するメインヒロインの固有スキル。
虚無の魔法を浴びたように、俺の心を虚無感が支配する。実際の魔法は違いますけど。
そう、俺は「妹が嘘をついた」のだと悟っていた。妹にとってはファーストキスではなかったのだと――。
まぁ、俺の知りうる情報は妹の自己申告……いや、違う。
以前に話した『アルファベット最初の文字』のポールポジションを狙っているって言うのは俺の想像に過ぎないのだ。いや、狙っていたのは俺自身のだから間違いでもないんだけど。
うん、うちの妹は『口より先に手が出る』タイプなんでな?
そう、言葉を言う前に手で俺を拘束してから唇を突き出してくるから妹のファーストキスなのかすら知らないのである。
まぁ、単なる俺の願望だったってことなのだろう。
……だけど、小豆のファーストキスの相手って、誰なんだろう?
俺の知っている相手なのかな? いつごろなんだ? 離れ離れの頃とか? さすがに戻ってきてからじゃ、ないよね?
……百歩譲って、せめて親父とか祖父ちゃんとか、俺的にはカウントされない相手であってほしい。
いや、それよりも香さんとかあまねるとか智耶とか――三人の誰かがファーストキスの相手なら間接的な意味で俺も幸せだからソッチの方向で!
「ぁぅぁぅ……」
「……。――ッ!」
「……お兄ちゃん、どうかしたのぉ~?」
未だに続く妹の狼狽を眺めて、最初は悲しみに覆われていたのだが。
途中から邪な妄想に覆われて幸せな気分に陥っていた俺を小刻みな振動が襲う。
ビクッと驚いた俺を眺めて我に返ったのだろう、心配そうに声をかけてきた妹。
「……いや、携帯だ……って、お袋からだな? ……しもしも~?」
『……それは小豆の仕事で――』
「ごめんなさい僕が間違っていました!」
『……わかればよろしい……』
まぁ、携帯が震えただけですけど。
俺はポケットから携帯を取り出しながら妹へ声をかけると、携帯を開いて画面を覗く。
画面に『お袋』と表示されていたことを妹に伝えると、そのまま通話ボタンを押して電話に出ることにした。いや、お袋相手に出ないって選択肢はないですし、妹に断りなく電話に出たからって怒られることもないですから。
相手がお袋だって知っているからか、少し悲しくなった心――と言うよりも邪な妄想を隠そうと、ボケた返事をしていた俺。うん、まったく他意はないんだよ?
そんな俺の言葉を受けて、こんな返事が受話器越しから聞こえてくる。
いや、それは別に小豆の仕事ではなくて、どちらかと言えば二人の共同作業……いやいや、他意はないから!
一応俺的には、将来的には『そんなビジョン』も視野に入れてはいたんだけどスッパリと断られたし……いやいやいや、だから他意はないってばさ! ……うん、からあげと手羽先が食べたい今日この頃。関係ないけどね。
まぁ、お袋の言いたいことを理解できるってことは……平たく言えば俺が「それを望んでいる」からであって。
瞬時に妄想が脳内を支配したことに恥ずかしさを覚えて、お袋の言葉を遮り謝罪をした俺。
お袋にも俺の真剣さが伝わったのだろう。普段絶対に使わない「僕」とか口走っているし。
特に言及することもなく、呆れた口調で了承の言葉が受話器越しから返ってくるのだった。
『……ところで、あなた達今日は帰ってこないつもり?』
「は? いや、帰るに決まっているじゃん?」
『そう? さっき、雨音ちゃんから連絡が入ったんだけど……全然帰ってくる気配がないから――』
「あっ、ご、ごめん……少し色々とあってさ? でも、もう帰るから――」
特に気にせずに言葉を繋ぐお袋。だけど言われた意味が理解できず反論する俺。いや、出がけに帰るって言ってあったよな? と言うより、帰らないって選択肢はないのですが?
そんな俺の言葉を受けて、あまねるから連絡があったことを伝えるお袋。
無事に解決した直後、心に余裕ができたからなのか。まぁ、あまねるに対しては除け者にしてしまった罪悪感があったからなのかな。
今まで俺達兄妹の間に起きていたこと。そして今日俺に起こった話を全部伝えていたのである。
いや、さすがに香さんの『ほっぺにチュ』は彼女の名誉の為に伏せておきましたけどね……。
そんな経緯から、あまねるがお袋の方へ無事に解決したことを連絡しておいてくれたのだろう。
それなのに中々帰ってこない二人を心配して電話をかけてきたのだろうと思った俺は、申し訳ない気持ちに
『透くんのところで一泊してくるのかと思ったわ』
「――しねぇよ! ……」
あっけらかんと紡がれた、こんな言葉に思わず言い返していたのであった。俺の謝罪を返せー!
なお、「透のところ」と言うのは透の家ではなく……まぁ、透の家ではあるんだけど。
透の家族が経営する旅館――『愛の巣』の和風版と言うのかな。そこの話であり、一泊するってことは……そう言うことなのである。
それを知っているから声を大にして否定していたのだが、会話を聞いていない小豆には理解できないのだと思う。急に目の前で大声で叫べば不審に思うだろうと、視線を移して妹へフォローを入れようと思っていた俺。ところが。
「……そ、そうだよね? 私にとっては『お兄ちゃんとの
「……」
『ちょっと聞いているの? お父さんも智耶も親子丼……食べずに待っているんだから……』
「――あっ、わ、悪い……もう帰るから……」
妹は俺に背中を向けて何やらブツブツと呟いていた。ど、どうしたんだ? 未だに狼狽しているのか?
背中越しな上、小声で呟いているから何を言っているのかは聞き取れない。
少し気になって一歩前に進もうとした瞬間に、受話器から少しムッとしているような声が鼓膜に響いてくる。……そう言えば電話中だったっけ。
普段から特に何も用事がない場合は一緒に食事をすることにしている我が家。
三人とも食事を取らずに待っていてくれているようだ。
まぁ、本来ならば遅くなったのは俺達のせいなのだから「先に食べていてもいいよ?」と伝えるべきなのだろうが……今日だけは言えないし、伝えたところで三人とも食べないことを知っている俺。
親父も絶対に『今日の夕飯の意味』を理解していると思う。智耶は……理解していないだろうけど、親父達が食べないから自分も食べないのだと思う。
本当によくできた小学三年生だな。俺だったら親父達なんて気にせずに、間違いなく速攻で食べていると思うし……。
まぁ、俺としては。
お袋の作った親子丼を『俺と小豆が食べること』に意味があるのだから先に食べてもらっていても問題ないんだけどね。
それでも、待っていてくれているのを知ってまで「先に食べていてもいいよ?」なんて言えない。
やっぱり俺にとって……全員で一緒に食べることが一番の望みなんだ。
だって、俺達は『家族』なんだからさ――。
俺は足を止めるとお袋に謝罪をして、すぐに帰ることを告げるのだった。
「……あぁ、それじゃ……小豆、そろそろ帰るぞ?」
「はぁ~い♪ ……むふふぅ~♪」
俺が電話を切ると妹は俺の方へと振り返る。
妹の表情から普段の妹へ戻ったことを確認した俺は帰ることを告げる。
俺に言葉を受けた妹は満面の笑みを浮かべて返事をすると、当たり前のように俺の腕に絡まってくる。
本当、今日のできごとが何もなかったかのように。
当たり前のようにスイカに挟まれた俺の右腕に伝わる感触と体温を嬉しく思う俺。
たぶん、この瞬間に「あぁ、全部終わったんだな……」なんて感じていたのだろう。
だけど。
「――ほ、ほら……早く帰るぞ? お袋の『親子丼』が待っているんだからさ?」
「――え? ……」
嬉しく思う反面、密着された妹によって妹の唇の感触を思い出していた俺。し、仕方ないじゃん。健全な男子高校生なんだからさ。
そんな恥ずかしさを誤魔化すように妹へ言葉を紡いだのだが。
俺の言葉にビクッと体を震わせ、パッと体を離して困惑した表情で俺を見つめる妹。やっぱり俺の想像通りだったんだな。妹にとっては『親子丼』は禁句だったようだ。
表情を
そんな妹を安心させるように、優しく微笑みながら右腕をクイッと差し出して――
「ほら……『俺達』の家に、一緒に帰るぞ?」
「……う、うん♪ ……」
「俺達」の部分を強調しながら言葉を紡ぐ俺。
アニオタの妹なら、これで通じるだろう。これ以上、言葉を重ねなくても理解してくれるだろう。
そう、『あの日』――俺が家を飛び出した日。たぶん、あの日から俺達の歯車はズレていたのだと思う。
戻ってきた日。俺は修復されたのだと思っていたのだが、それは完全ではなかったってこと。
きっと目に見えないほどの小さなズレが今まで存在していたのだと思う。
だけど。
そう、今、俺達は完全に一つの兄妹の形を取り戻した。
あの頃とは違っているとは言え……今の俺達が望む、本当の兄妹の形に、さ。
だから俺達は一緒に帰るんだ。
あの日に飛び出したままの俺と――トラウマを抱えている妹。
そんなことが何もなかった二人に。俺が飛び出した前日へと戻る為に、な。
俺の心意を理解してくれたのだろう。
妹は表情を緩めて笑顔を見せると、心から嬉しそうに返事をしながら再び俺の右腕へと絡まってくる。
右腕に体温を感じた俺は何も言わずに前だけ見つめて歩き始めていた。
妹も何も言わずに同じ歩幅で歩き始める。
もう大丈夫。あとは何も考えずに家に帰るだけ。それで俺達は戻れるんだ。
再び与えられた熱を感じて、互いの歯車が完全に
小豆はアニオタ、俺はアニ。その関係を築いていければ十分なんだ。
確かに妹のファーストキスの相手は気になるところではあるけどさ?
だけど俺のファーストキスの相手が小豆なだけで十分なんだと思う。
正直、俺のファーストキスの相手が小豆だってことだけで、俺の人生は丸
結局、俺は俺らしく。小豆は小豆らしく。自分の思うままにアニオタを貫いていければ二人はアニオタでいられるはず。
そう――
常に
もらったものを返していける……相手と
そう、ずっと相手に
そう、互いの心に
そんな関係を心がけていけば俺達はずっとアニオタ。ずっと兄妹でいられるのだと感じているのだった。
◆
「……」
「うふふふふ~♪」
すっかり真っ暗になっていた帰り道。
家まで帰る途中、特に俺達は何も話はしなかった。前だけを見つめて歩き続けていた。
だけど妹は終始笑顔を絶やさずに、俺にピッタリと絡まって一緒に歩いている。
それだけで俺は満足していた。きっと妹も同じなのだろうと感じていた。
互いに伝わる熱と感触。風が伝える互いの香り。
そんな二人の空間に、言葉も音も景色もいらない。必要なのは俺達を導く一筋の光だけ。俺達の家まで導く光だけあればいい。
そう、余計なことになんて気を回さずに。
ただただ、この空間に身を
「……ふぅ……それじゃあ……」
「……うん……」
「……」
「……うん♪」
ゆっくりと、それでも確かに俺達は同じ歩幅を刻み続けていた。
そんな歩幅も俺達の家の前で一度歩みを止める。
俺は扉の前で軽く息を吐き出すと、隣の妹へ視線を移して声をかける。
そんな俺の言葉を受けて、妹は納得の笑みを浮かべて体を離すと反対側へ移動しながら返事をする。
二人の空間に少しだけ作られた隙間。そこにスッと差し出す俺の左手。そんな俺の左手に、小さな右手が重なってくる。
互いの熱を感じ取り、どちらからともなく互いを求め、重なった二つの手は強く固く結ばれることになる。
そんな圧を感じ取った俺は空いている右手でドアノブを握り、ゆっくりと右に回してドアを開く。
本当の意味でのエンドカードを迎えた俺達。これで俺達の物語は、本当に終わりを迎えることになる。
だけど、これで終わりじゃない。
そう――
小豆が望んで、そして俺が望んで。
互いが望み続けるのなら、俺達の物語は第二期シリーズに突入するのである。
いや、三期四期五期……何年にも及ぶロングラン作品へと成長することだろう。
大丈夫、俺達は望み続けるさ。飽きることなく求め続けるさ。
だって俺達は――互いが認める『アニオタ』なんだから、な。
「ただいまー!」
「ただいまぁ~♪」
俺達は二人で綴る今後の作品に期待を膨らませ。
前だけを見つめて満面の笑みを浮かべながら。
『完』の文字を刻むように、挨拶を済ませてから同時に家の中へと進むのであった。
最終章・完
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