14.
「ここに立ち寄れて良かったわ」
恵は食後のお茶まで済ませると、旅立つ前に洗面台の前に立った。
しっかり化粧をしているというのに、その顔に豪快に水を浴びせた。
「スッキリした!」
顔を上げ、何か拭くものをとサエを急かす。
「恵さん、その顔……」
タオルを手渡したサエが絶句した。
ちらりと視界に入った鏡を覗き込むと、そこには本来の姿の恵が映っていた。
「あら。執着がなくなったせい?」
若いままが良かったわなどと冗談ぽく嘆いてみせるが、サエは真面目な顔で恵の手を取った。
「私はこっちの方が好き! とっても優しい顔をしてるもの!」
キラキラと輝く眼差しを向けてくる。
「あら、そう?」
と、またしてもおどけてみせたが、内心は照れくさくて仕方なかった。
ごまかすように、もう一度鏡に視線を向けた。
よく見れば母親にそっくりだと、恵は嬉しそうに笑った。その顔を見て、サエも笑顔をになる。
「サエさん。ありがとう。あなたのお店に来れて、本当に良かったわ」
そう言って力一杯にサエを抱きしめた。
「最期に自信を持つことができて、本当に良かった」
サエはその言葉に応えるように、そっと背中に手をまわした。
細い体が小さく震えていたが、サエは気づかないふりをして彼女の胸に顔をうずめた。
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