第84話 セッティング
「とりあえず、座りましょうか。」
と、部活さんが促(うなが)す。
「皆さん…。」
ためたぁ! な、何だろう。
「次の土曜日の午後。練習試合が決定しました。」
「おーっ!(✕5)」
声が揃った。
「で、相手はどこです?」
小南先輩が身を乗り出しながら聞いた。
「西高(さいこう)です。」
答える部長さん。
「西高ですか…。」
副部長さんの言い方、気になる。
「西高って、アノ西高ですよね。」
と、聞いてみた。
「そうです。西音寺(さいおんじ)高校、通称西高です。」
美星先輩が答えてくれ、続けて、
「そこの部長が、うちの部長の幼馴染み…と、言うか[宿敵]なんですよ。」
さらりと凄い事言った。
「[宿敵]って[好敵手]と違うんですか?」
一応聞いてみる。
「[好敵手]は、切磋琢磨してお互いを高め合う存在だけど…。[宿敵]はいつか倒す! って存在かな? ね、部長。」
答えたのは副部長さん。で、最後は部長んに振った。
「そうですね。あの人とは、事ある毎に対立してきましたからね。[宿敵]で合っていると思います。」
部長さんも認めた!
「話し始めると、長くなりそうなので止めときますが…。」
そ、そんなにあるんだ…。ちょっとだけ、気になる。
「八束さんが、このタイミングで部活に復帰したは幸いです。」
一旦、[宿敵]の事は置いておくみたいだ。
「ああ、俺様に任せとけ。」
今、気が付いた八束先輩って一人称が[俺様]なんだ。
「特に、[転生者]の日向んは機体のセッティングしないとな。」
「機体って、セッティングしても良いんですか?」
「レギュレーション内なんで、ちょこっとだけだけど、セッティングを変えられるんだよ。」
「なるほど…。」
「セッティングで、挙動を0.01秒速くする…。」
「0.01秒ですか…。」
「そそ。だけど、0.01秒と侮(あなど)る無かれ!」
熱弁の圧に押され、体が後に下がった気がした。
「五回で、0.05秒! 宇宙の刑事だって変身できる時間が稼げる!」
八束先輩の握った拳は、何を守るんだろう…。
「反応速度を上げるって事ですね。」
「おっ、判ってるね。」
「それで[磁力皮膜]を各関節のモーターに使うと…。」
「な、なんでそれをぉぉぉぉぉ!」
滅茶苦茶驚いたのに、こっちも驚いた。
「ま、まさか…。俺様の思考を読んだのか…。それが、新人類…いや、転生者の力かぁぁぁぁぁ!」
立ち上がり、『クワッ』と目を見開いた。
「八束さん。さっき、寝言で言ってましたよ。」
美星先輩が、右手をそっと伸ばして八束先輩に添え落ち着かせた。
「そうだったのか…。俺様はてっきり転生者の能力かと思った…。」
と、椅子に座った。
「ちなみに、[磁力皮膜]はまだ調整中だからな。」
「では、日向さんは八束さんと機体のセッティングを。他の人は各自、自分の課題やってください。」
と、部長さん。
「はーい。(✕6)」
練習試合に向けた、其々の部活が始まった。
セットアップすると、モニターの小窓に八束先輩が映った。
「ほんじゃあ、今日は俺様の言う通りに動いてみてくれ。」
「分かりました。」
いきなり、
「じゃあ…。全開ダッシュ!」
「は、はい!」
一瞬の間を開けて反応する体、操縦桿を倒して、ペダルを目一杯踏み込む。
『ギュルギュル』とタイアが空転し、『ギュギュッ』とグリップからのダッシュ。
あっ、やっぱりダッシュまでに空白の時間がある…。
機体は『グオーン』と速度を増して最高速度へ。
「右急速旋回!」
「はい!」
機体の向きを変える。
「左急速旋回!」
「はい!」
機体の向きを変える。
「美星ぃ。的出してくれる。」
「はい。場所は、どうしますか?」
「ランダムでいいよ。」
「では、的をランダムでセットアップします。」
ふと見ると地面から、あちこちにあの人の形の的が迫り上がってきた。
「右旋回、的をライフルで。」
「はい。」
もう、『はい。』しか言ってないね。
「次は、左旋回しながら、ミサイル!」
「はい!」
指示が難しくなると、余裕が無くなり焦りが増える。で、焦りから声が大きくなるのは、自然の事かも…。
「んじゃ、次は剣出して。」
持ち替えて、
「持ち替えました。」
「OK! 全開ダッシュ!」
しばらく、八束先輩の指示に従って機体を動かしてた。
「だいたい、感じ解ったから一旦こっち来て。」
「分かりました。」
と、終了させ隣へと。
「えっと、日向んっさ。メモリー持ってる?」
前に聞いた、専用のメモリーだな…。
「すみません。持ってないです…。」
「いや、謝らなくても…。」
「それどころか、スマホもないので備品の小型タブレット借りてます。」
「そうなんだ。じゃあ、タブレットを貸して。」
と、手を出した。
「はい。」
持っていた小型タブレットを渡した。
「機体のセッティングってやったことある?」
「いえ、やったことないです。」
「じゃあ、やってみよう。」
モニタールームの端っこの使ってない場所を二人で占拠した。
「それにしても、このタブレット懐かしいな。俺様が入った時には、もう使われなくなって久しいとか言ってたからな。」
と、操作して、
「うへ。OSが古過ぎる。」
と、直ぐに、
「魔改造禁止ですからね。」
美星先輩が離れた場所から突っ込んだ。
「えっ。なんの事だかぁ…。」
明らかにキョドったぁぁぁぁぁ。
「無茶すると、CPUに負担掛かって、バッテリー死にますからね。」
念押しした。
「解ってるよ。でも、ちょっとだけなら…。」
「駄目です! 八束さんのちょっとは危険なレベルですから。」
「駄目か…。」
「諦めてください。」
「判った、諦めよう…。」
凄い残念そうにいった。よっぽど魔改造したかったんだな。
八束先輩がこっち向いて、
「じゃあ、セッティングしてみよう。」
タブレットを二人で見える位置へと、
「【リョウサン】は、機体のセッティングは…。」
と、タブレットを操作する。
「この画面で。」
ふむふむ。
「全身のサスペンション…、うーん、[硬さ]って言えば良いのか。」
気を使って言葉選びしてくれていた。
「あっ、機体の[柔軟性]だ。そうそう、[柔軟性]。」
「なるほど。」
「初期だと、真ん中になっているから。」
タブレットには、縦長のバーが表示されていて、三角形のマーカーが真ん中にあった。
「このマーカーで、[硬い]から[柔らかい]まで決定すると、【リョウサン】は自動でやってくれる。」
今の言い方に少し引っかかった。
「『【リョウサン】は』って事は、自動じゃない機体もあるんですか?」
「鋭いね。自動っていうのは、容量食うし、処理に時間かかるんだ。だから、自動部分を減すと、機体に余裕が出る…。」
「そっか!」
「その分、大変だけどね。」
「あっ…。」
やっぱり、良い事ばかりじゃないんだ。
「だから、最近の機体は全部自動になった…。」
「そうなんですね。」
「それに、扱いもデリケートでシビアになるしね。」
「なるほど…。」
設定リアル過ぎだよと、また思った。
「とりあえずは感触を掴む為に、目一杯[柔らかい]でやってみるか…。たぶん、好みとは逆だろうけど。」
えっ、好み解ったの?
「えっと…。」
どっち側が[柔らかい]のかな?
「下側が[柔らかい]になってるから、マーカーを一番下まで。」
「はい。」
言われた通りに下げて[決定]を押した。
「じゃあ、動かしてみよう。」
私はタブレット持って、コックピットルームへ向った。
さっきみたいに指示通りに動かしてみた。
「どうよ?」
と、八束先輩。
「このセッティングだと、動き出しは良いです。が、旋回でもたつく感じがします。」
「感じが解ったら、セッティング変えてみよう。」
再セッティング中…。
今度は、目一杯[硬い]にし、同じ様に動かしてみた。
「今度は?」
「今度は、出だしはもたつき気味で、旋回が鋭くなった気がしますが、何だか跳ねる感じがします。」
「うんうん。で、どっちが好みに近い?」
「[硬い]方が良いです。」
「じゃあ、[硬い]セッティングの段階を探ろう。」
それから、私に合った硬さを探すために、セッティングしては動かすを繰り返した。
なんとな~く、セッティングが決まりそうだな。
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