第70話 正体

 日課を終えて、部室に帰って来た。

 扉を開き、

「戻り…。」

「あぁぁぁぁぁ!」

と、大声を出して、小南先輩が立ち上がった。その勢いで座っていた椅子が音を立てて倒れた。

「しまったぁぁぁぁぁ!」

 更に続け、両手を頭に付けて左右に降る。


 私を含め、残りの全員が驚いた顔をして小南先輩に注目していた。

「何が、『しまった』なのですか?」

 部長さんが聞いた。

「昨日だったんですよぉぉぉぉぉ!」

 今度は両拳を握り胸の前辺りで上下に振った。

「先ずは、落ち着いて私達にも解るように。」

 流石、部長さんだ。今ので、驚いていた人達(私も含む)が落ち着いた。

「深呼吸して…。」

と促(うなが)す。

「す~は~。す~は~。」

「落ち着いた?」

「はい。」

「では、私達にも解るように。」

「昨日ですね。」

「昨日? 日曜日ですね。」

「はい。日曜日にですね。テックセッター○○○(マールズ)でササラセ精機の次期主力機体の発表会があったんですよ!」


 その言葉に『ドキィィィィィ!』と私の心臓が反応した。

「来週だと勘違いしてたんですよぉ。」

「なるほど、そう言う事でしたか。」

 皆が大声の謎が解った。が、私の『ドキドキ』が止まらない。

「今そのイベントの記事って言うか、投稿のページを見つけちゃって…。」

 机の上のタブレットを皆に見せる。タブレットの上で覗き込んだ頭達がくっついた。

「なるほど。これがササラセ次期主力機体ですか。」

 副部長さんが、値踏みしてるみたい。


 そっと近付いて見た。そこに写っていたのは、舞台にあった大型モニター。あの時の写真か。

「コメントがありますね。どれどれ…。」

 副部長さんが読み上げる。えっ、コメントに変な事書いてないよね。

「次期主力機体の候補が二体。完全な汎用機体と白兵寄りの汎用機体。」

 普通のコメントだ…。

「完全な汎用機体の方は、現在の使われている汎用機体をより進化させた造り。白兵寄りの汎用機体の方は、背中にサブアームを装備し、シールドを操る。」

 コメントを読み終えた副部長さんは、嬉しそうに、

「ついに、サブアーム実装ですって。これで、装備の幅も広がります。」

「でも、手動ぽいですから、使い方は限られるかも…。」

と、百地先輩。

「それは、仕方ないんじゃないかな。自動なんてやったら容量が大変な事になりそうだから。」

 小南先輩の冷静な分析。

「うーん。使ってみないと解らないって事か…。」

 副部長さんは、ちょっと迷う。


「そう言えば、日向さん。日曜日はテックセッター○○○(マールズ)でツンデレお嬢様と会うって言われてましたよね。イベントご覧になりました?」

 部長さんに行くって言ってたの忘れてたぁぁぁぁぁ!

「いえ、そのあの…。」

 パニック寸前、

「私ガ、帰ッテカラいべんとヤッタンジャナイカナ…。私、絶対ニ見テナイデスカラ!」

 完全な棒読み!

「そうなんだ。もう少し待ってれば見えたのに惜しかったね日向ん。」

 小南先輩…、見る側じゃなくて、出る側だったの…。


 副部長さんが投稿の続きを目で読む。

「あっ、面白い事が書いてありますよ。」

と、テンションを上げた。

「今回の発表会で最も凄かったのは、コンパニオンによる模擬戦闘。」

「発表会では、よく模擬戦闘はありますね。」

と、部長さん。

「模擬戦闘が始まると観客は疎(おろ)か、司会者まで我を忘れて魅入るほどの凄い戦いだった。」

 喜んで良いのかな、私?

「動画上がってますね。」

 美星先輩が手にしていたタブレットを差し出した。

「スマホか、何かでモニターを撮影したものだとは思いますが…。かなりの再生数いってますよ。」

 えっ、いつの間に…。私、ピンチ!?


▷再生中

 その間は、皆は無言だった。私は、ただ終わるの待つしかなかった。


 長く感じた動画の再生がようやく終わっり、

「本当に凄い戦い。生で見たかったな。」

と、小南先輩。

「本当ですね。」

 副部長さんも賛同した。

「二人共コンパニオンにしておくには惜しい逸材ですわ。」

 部長さんが。


「こ、これはぁ!」

 少し間を開け、百地先輩が大声を上げた。

「ど、どうしたの百々っち。珍しく大声上げて。」

 小南先輩が驚くほど、大声が珍しいみたい。

「見てください。これを!」

 皆がタブレットに集中する。私はやっぱり、そっと覗き込む…。


 右の人差し指で画面をゆっくりとスクロールする百地先輩。


 そこに、写っていたのは、私と桃河さん! 衣装着て、ゴーグルしているから正体はバレてない…はず!

「舞台上で、これだけ色々な角度から写真を撮られているのに…。」

 スクロールしてもしても写真出てくる。どんだけ撮ってるんだ…。

「一枚も際どい写真が無いんですよ。ミニスカ衣装なのに!」

 そう言えば、そんな感じの事言ってたな。

「この衣装作った人はただ者ではないですね。きっと名工の一品に違いないです!」

 言われて、皆が写真の確認を始めた。


 しばらくして、

「ほ、本当だ。こんなにいっぱいあるのに際どい写真が無い…。」

 小南先輩が驚いていた。そ、そんな凄い衣装だったの…。

「これは、参考になるかもしれませんね。」

 部長さん、何の参考になるの? もしかしなくても、私の衣装…だね。

「では、ピックアップしておきますね。」

「お願いね。美星さん。」

「はい。」


「それにしても、この二人って本当にコンパニオンなのかしら?」

 『ぎくっ!』バレた? 部長さんならありえるから怖い。

「そうですね。操縦技術もかなり高いですし。」

 副部長さんに褒められた。

「この二人に関してですが、スレッドが立っていて凄い勢いで伸びてます。」

「内容はどうなってますか? 美星さん。」

「この二人。こちらが[マーベク少佐]で、こちらが[アシャー少佐]って設定みたいです。」

と、タブレットの写真を指差す。


「最初は、操縦技術の高さについてでしたが、直にどちらが可愛いかになり、派閥ができて激しい戦いになってます。」

 な、何だってぇ! 私の知らない所でそんなことになってるなんて…。

「ササラセ精機の方に問い合わせが殺到し、公式サイトでコメントが出されてます。」

「なんて、書いてあるの?」

 小南先輩、私も興味ある…。

「えっとですね。『彼女達につきましては、現在極秘プロジェクトが進行しております。正式発表をお楽しみにしてください。』だそうです。」

 極秘プロジェクトっ何ぃぃぃぃぃ!? 聞いてないんだけど。

「アイドルグループとかかな?」

 小南先輩、それは困る…。

「ありそうですね。」

 副部長さん、困るって…。


「はい。」

と、同時に『パチン』と手を鳴らし、

「切り替えて、部活を始めましょう。」

「は〜い。」


 気が付いた…。百地先輩がタブレットにかじり付く様にアップされている写真を見ているのに。

「はい。百地さんも部活、部活。」

「あっ、すみません。見入ってました。」

と、席を立った。そして、私に、

「日向んは、どっちが好み?」

と…。バレた!?

「私は、サブアーム付きを使ってみたいです。」

 誤魔化せたかな?

「そうね。サブアーム魅力的よね。」

と、モニタールームへ向かった。

 その時見たよ私…、百地先輩の口元が『ニャ』ってしたのを。バレた感半端なくて、『ドキドキ』が止まらなくなってた。


「部長さん。今日は、まだ使ってない武装を試したいんですが、良いですか?」

「はい。では今日はそれで。」


 正体がバレる日がこないだ事を祈りながら、モニタールームへ向かう私。



 その日は、

『魔砲少女・ハガネッ娘』その正体は?

の夢を見るかと思ってたけど…。意識すると見ないもんだ。


 穏やかな朝を迎えられた。

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