第25話 伝説の木

 眠い目を擦りながら、学校の下駄を開く。

「!?」

 一瞬で目が覚めた!

 上履きの上に置かれたもの…。それはぁぁぁぁぁ!

 都市伝説だと思っていた。この世には存在しないと。

 でも、心の底で信じていた。きっと、この世にあると…。

 そう、それはぁぁぁぁぁ!


 『ラブレター』


 キョロキョロと周囲を確認する。良かった、カメラは無いみたい。

 後は、爆発したりしないかの確認だ。

 恐る恐る手を伸ばして、突いてみる。

 『ツンツン。』

 だ、大丈夫みたいだ。

 手に取り素早く鞄に入れる。そして、もう一度キョロキョロの周囲を確認。

 誰にも見られてないな。


 教室に鞄を置き、そっと『ラブレター』をポッケに忍ばせトイレに向かう。


 個室に入り鍵をかけ、キョロキョロともう一度確認…。壁しか見えない。

 ラブレターを開いて内容の確認。


 なになに…。



 愛しの向日葵様へ。


 突然のお手紙、驚かれたと思います。お許しください。ですが、私のこの気持ちを伝えないと、この胸が張り裂けそうです。


 今日の放課後、校舎裏の伝説の木の前でお待ちしています。



 やったー! 伝説はあったぁぁぁぁぁ!


 これで、実宏に勝った。


 …。


 待て待て、まだ冷やかしかもしれない放課後まで喜ぶのは我慢だ。


 授業終了のチャイムと共に教室を飛び出して、あの場所へ向かう。


 校舎の角を曲がると、伝説の木が見えてきた。

 その下に、制服姿の男子が背中を向けて立っている。


 恥ずかしさもあり、俯(うつむ)き加減だけど、勇気を出して声をかける。

「あの、お手紙を頂いた。向日葵です。」

 見えている首から下の体が、ゆっくりとこっちを向く。

「来てくれて、ありがとうございます。日向さん。」

 ゆっくりと顔を上げ、制服の上にある顔を確認する…。


 どうか、イケメンでありますように! と願いを込めながら。


 顔を見た瞬間、私は言葉を失った。


 何故なら、その顔に見覚えがあったから…。そう、その顔は…。

 【矢影】の頭!

 百地先輩の使っている機体が、制服を着ている。

「日向さん、貴女に私のパイロットになってもらいたい!」

 これは、紛れもないラブコールだけどぉぉぉぉぉ! なんか、違う…。

 理解できなくて、フリーズしていると、

「ちょと待った!」

 木の後ろから、今度は【狩守】が制服を着て出てきた…。


 あわあわ、何が起きている!?

 更に、

「ちょと、待った!」

のコールがあちこちで起き、その辺りの陰からパンツァー・イェーガーが制服を着て出て来る…。出て来る!


 口々(あればだけど)に

「私のパイロットに!」

と、一斉に私に詰め寄る!

 もみくちゃにされる私…。

 苦しい!


 いきなり手を掴まれ、グイッと引っ張られ、もみくちゃ状態から抜け出した。

 手の持ち主を見る! それは、よく知った顔!

「リョウサン!」

「貴女は、僕のパイロットです。」

 照れて良いのか? 私!


 ゆっくりと現実に戻った。それは、目が覚めたって事だ。

 時計を見ると少し早い。アカ助もまだ寝ているし。

「はぁ…。」

 長ため息。

 なんて、夢を見ているんだか…。


いっぱい機体を操縦したり、資料見たり、動画見たりしたからかな…。



 そう言えば、思い出した。


 前の日に教室で男子生徒が、集まってパンツァー・イェーガーの話をしていた時に、思い切って話かけたら…、

「僕達は、パンツァー・イェーガーを楽しむ程度なんだ…。部活に入って地獄の特訓してまでやってないんだ。」

「許して…。」

 教室から逃げ出して行った。


 それも関係あったのかな。

 ねえ、アカ助。

 やはり、アカ助は何も答えてくれない。

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