第23話 依頼

 潮の匂いが立ち込める深い霧が辺りを白い闇で被っていた。

 大型の船をロープで、港に繋ぐアレに足を掛け待っていた。汽笛の音が遠くに聞こえる。その時、背後に靴音。

「私の後ろに立つんじゃない!」

 振り向きざまにコートの懐から取り出した銃を構える。

 背後から近付いた男は、両手を上げ敵意が無いと示す。

「すまない。撃たないでくれ。でもよ、お陰であんたがあのスナイパーだって解ったよ。」

 向けられた銃を見ながら、

「手、下ろしてもいいか?」

 私が頷くと、男はゆっくりと手下ろし、懐から写真を出した。

「依頼のターゲットだ。こっちが報酬だ。」

 持っていた銀色のアタッシュケースを差し出した。

 無言で受け取ると、依頼者に背を向け立ち去る。


 その背中に、

「中身は確かめないのかい?」

「約束と違えば、次のターゲットはあんただ。」

と答えた。



 ビルの屋上。そこが最適な狙撃ポイントだ。

 

目標が、この時間に必ず通る場所を狙える。

 準備し、待つ…。


 時間だ。オープンカフェの前をターゲットが通りかかる。

 狙いを付け、引き金を引く。

『ズキューーーーン!』

 弾丸はターゲットへ。


 男は決意して、彼女をこのオープンカフェに呼び出した。そう、この指輪を渡す為に。

 彼女に少し目を瞑っておいてとお願いし、準備する。

 片膝を付き、小箱を開きさし出す。そして、目を開けるようにと…。


 ターゲットの額を捉えた弾丸は、見事に…外れた!


 弾丸は、男が差し出した小箱の指輪を弾き飛ばした。

 彼女が目を開いて見たものは、空の小箱…。

 一瞬、きょとんとしたものの、からかわれたと激怒し、男をビンタし背を向けて大股で歩く。

 今度は、男がきょとんとしたが、彼女が去って行くのを見て慌てて追いかけた。


 彼女は対向車線にタクシーが来るのを見付け止めた。

 運転手は、とてもラッキーだと。何故なら、先程客を降ろしたばかりだったから。


 直ぐに発車しようとして、先程ラッキーだと思った事を後悔した。乗り込んだ女性と追いかけて来た男性も乗り込み口論を始めた。


 弾かれた指輪は、ウエイターの右手に直撃。

 痛みで、運んでいた熱々のコーヒーを、たまたま下にいた男の頭にぶち撒けた。

 熱さに耐えかねた男は勢いよく立ち上がり、目の前のテーブルをひっくり返した。

 丁度、通りかかった男はひっくり返ったテーブルの角が弁慶の泣き所へ直撃し、うめきながら道路へと転がり出る。


 目の前に飛び出してきた男に驚いた運転手は、急ハンドルを切り車を対向車線へとはみ出させた。


 口論は一層激しくなり、運転手の意識がそちらへと。その直後、対向車線から自分の車線へとはみ出した車。

 気が付くのが一瞬遅れた運転手は驚いき焦った。

 慌てて、ハンドルを切り向きを変えた。

タクシーの向かった先は、先程まで二人が居たオープンカフェ。


 オープンカフェで起きていた騒ぎに気を取られて立ち止まっていたターゲット。

 タクシーは、ターゲットを巻き込んで、オープンカフェを破壊した。

「ターゲット始末完了。」

 私にかかれば、造作も無い!


「起きなさい!」

 それは、現実に戻る呪文。

「ニヤニヤしちゃって、何の夢をみてるの?」

と、見下ろすのはお母さん。

 今日もやっちゃたか…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る