第57話 藤宮かのん5(※藤宮かのんSIDE)

 タツト君がナイフを竜めがけて投げる。その、ナイフが竜の防御壁を破って右眼と胸元にある金色の鱗に突き刺さった。彼の握る剣に魔力が集まっていくのがわかった。綺麗な色の光。タツト君は地面を蹴って跳躍する。金色の鱗を目がけて剣を突き刺そうとした。

 避けようのない場所から竜の姿が消える。なのにタツト君は慌てもしないで、振り向きざまに剣を横なぎに振るった。

 死角に置くようにふるわれた剣は竜の尾を斬りさいて、それが地面に落ちた。

 斬られた尾から血が噴き出す。

 タツト君は構わず間髪いれずに竜に向かう。

 私は竜がこちらを気にする余裕がなくなったことを感じた。

 タツト君に向かいブレスを吐こうとするのか、口を開けた。

 タツト君はその口に剣を投げた。喉奥に突き刺さった。雷撃の術式が発動した。

 タツト君は金色の鱗に刺さったナイフをぐっと根元まで押し込むと、そこから大量の魔力が抜けていく。金色の魔力が竜の身体から抜けていくのは綺麗と言うよりも怖かった。

 そこに追い打ちをかけるようにタツト君はさらに雷を落とす。

 苦しみ出した竜の尾がタツト君をまた吹き飛ばした。

 慌てて治癒魔法を飛ばす。

 そのあと電撃にもんどりうって暴れまわった竜は、やがて沈黙した。

 タツト君は動かない。彼の指輪の石が輝いた。

 慌てて私は倒れているタツト君に駆け寄った。

 竜は、倒されたようだった。


「タツト君!?いや、タツト君!!」

 思わず呼吸と脈を確かめた。大丈夫、息も脈もある。

 私は彼の腕を肩に乗せるようにして支えて歩きだす。重いと思われた彼の身体を支えられるくらい、私は力を付けていた。

 いや、女の子なんで、そういう力はいらないんだけど。

 でも、剣を振るうなら力は必要なんだよね。

 ああ、でも、今は地上に帰らなきゃ。最後の扉なのだろうか、大きな扉が開いた。

 今までと同じように大きな転移陣があった。


「…しっかりして!!」

 声をかけ続けながら転移陣に向かう。彼の腕がぴくっと震えた。

「大丈夫、生きてる…魔力はほぼ持ってかれたけど…」

 よかった。彼は私に支えられながら自力で魔法陣のところまで何とかたどり着いた。

 その瞬間魔法陣が輝いて私たちは地上に戻った。タツト君はもう立っていられなかった。

 肩に彼の体重がかかる。

 光が収まると、出口にある転移の部屋だった。

 そこに水色の髪の男の子が飛び込んできた。

「タツト!!」

 その後ろにピンクの髪の女の子と、ときわ色の髪の少年も駆け寄ってきた。

 タツト君が崩れ落ちるのを水色の男の子が抱きとめた。

 何か言葉を交わしてタツト君が気を失った。

 私は思わず悲鳴をあげた。

「いやあ!タツト君!!」

 ピンクの髪の女の子は治癒の魔法をタツト君に掛けた。

 もう、ここは彼らに任せた方がいいのだろう。治癒院に運ぶ指示をリーダーと思える水色の髪の男の子がしている。

 呆然と私は立ち尽くしていると、声をかけられた。

「よく帰ってきてくれたね。俺は諜報部から調査に来ているラビという者だ。つらいとは思うが、君たちが消えた後の状況を話して欲しい。ああ、勿論宿舎に帰ってゆっくりしてからでいい。」

 銀の髪に金色の目。それを取り巻く光の渦。

 この人は何者?諜報部のラビ。事情聴取って、そうか。二人何日も行方不明だったんだもの。

 そうだよね。ちらっとタツト君を見送って、彼は宿舎に送ってくれた。


「よかったー!!よかったね。」

 結衣、カンナ、有希が飛び付いて無事を喜んでくれた。

「うん。一緒にいたタツト君が護ってくれて無事に戻れたんだ。」

 私に抱き着いた彼女達は私の恰好に気付いた。そう、もう汚れがひどくて“浄化クリーン”の魔法ではもう落とせないレベルだ。というか、そんな暇はなかった。

「よかったよ。お風呂と食事、して休もう。凄い血まみれって言うか…本当に大丈夫だった?」

 大丈夫と言いきれない私は苦笑いをして汚れを落として休ませてもらうことにした。他の人たちは遠巻きに見ていた。


 その日は気を失ったように寝てしまった。タツト君は、大丈夫だったのだろうか。



「ありがとう。よくわかりました。」

 ラビと言う人の声に私ははっとした。

 この人は不思議な人だ。タツト君のように周りに光が絶えない。虹色の魔力の光がこの人を覆っている。その光はうっすらとして、綺麗に制御されているようだった。

 昨日この人が現れた時はその魔力の光は見えなかった。もしかしたら魔力を抑えることができるのかもしれない。

「精霊眼は珍しいですからね。魔法を使うのにはいいスキルです。どうです?魔術師の弟子になりませんか?…まあ、俺ですけどね。よければ指導しますよ。内緒ですけど、俺も持っていますから。王都に戻ったら、使いを出します。他の皆さんの身の振り方も、少し以前とは違う形になるでしょう。」

 にやりと口の端をあげて彼はウィンクをした。人差し指を唇にあてて内緒です、と言うのはなんだかいたずらっ子のようだった。

「ご協力ありがとうございました。ではまた。」

 不思議な人だ。彼の背中を見送って、タツト君のようにこのスキルを使いこなせるといいと思った。

 タツト君が目を覚ましたらお礼を言って戻りたいというわがままを聞いてもらい、私だけ残った。

 彼は3日後に目を覚ました。負担にならない短い時間をもらった。

 私は魔術師の弟子になるということ、勇者になれないと思うけど、私にできることはしたいと彼に伝えて王都に戻った。



 私はあまりの変わりように驚いていた。“彷徨い人”は全体で訓練をするということになっていた。

 後半組と呼ばれた10人に私たちが合流する。

 遅れて合流した私にとって訓練はとても厳しいものだった。

 けろっとしている後半組と呼ばれる人たちが私たちの面倒をみる形になってた。

 カディスと呼ばれる腕の立つ男の人が剣術の訓練、宇佐見明良と言う、日本人が魔法の訓練の教師だった。

 驚いた。そしてかけられた一声がこれだった。


「やっほー。ラビちゃん先輩って呼んでね。精霊眼はね、魔力切れば普通の視界になるよ。だって眩しいでしょ。キラキラしすぎちゃって。」


 そして知った。もうひと組の中心的な人物、“ウサミアキラ”この人がラビと言う人だったことを。

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