第21話 3人組

 俺は覚悟ができてなかったんだと思う。

 グレイベアの時、”鬼”の時。

 いつだって最後に浮かぶのはアーリアの顔。この世界で初めて会った少女の顔。

 彼女を護るということ。この世界を護るということ。

 俺は勇者になれないとかそういうことじゃない。

 与えられた力は勇者になるための力かもしれない。でも、勇者になれなくても、この力で出来ることもあるかもしれない。

 ただのオタクの大学生にも出来ることがあるかもしれない。

 こんな普通のインドアの男にも、アーリアの喜ぶことが出来るかもしれない。


 あの日、触れた震える唇の、必死さに応えようと思うなら。


 ギルドは大騒ぎでソロで仕留めた俺はいろいろと質問を受けたが、カディスが間に立って収めてくれた。いろんな話し合いをして、ギルド長権限でCランクになった。


 Bランクに上がるには試験があるのでとりあえずこれでストップだ。

 迷宮の存在がわかるのはしばらくあとになるのだが、危険度の調査のため、Eランク以下の森への立ち入りがしばらく禁止となり、初級の冒険者は悲鳴をあげていた。

 俺は立ち入り禁止が解けるまで、アーリアに頼まれていた、”彷徨い人”の面倒をみるつもりだった。


 それともう一つ。

 俺は諜報部に籍を置きたいと願い出た。グレイナーの力を借りたかった。

 まだ俺には力が足りないから、経験と、カディスよりも上の実力者たちに鍛えて欲しかったのだ。

 もちろん、任務も発生するが俺が”彷徨い人”であることから拘束はしない、遊撃のような立場にしてくれた。俺の立ち位置はアーリアの影の護衛。アーリアから王にもそういう形で了承を取った。そうすれば、いろいろ自由がきくからだった。


 冒険者活動を少し間引き、アーリアの護衛のローテーションに組み込まれて、残りの時間を自身の鍛錬とそろそろ座学が終わりになる3人の”彷徨い人”の訓練にあてる。


 カディスへの協力要請は通り、フリネリアも手が空く時期に指導してくれることになった。

 魔法の教師は先発組の指導すらままならないことから俺が教えることになった。

 カリキュラムを考え、計画を練った。そして俺は彼らに合流した。


 新垣悠斗 ・・・ 17歳 MP300 HP100 INTが高く魔術師タイプ 賢者っていうのがある。

 魔法属性は聖光水土だ。スキルはない。


 今井基 ・・・ 16歳 MP100 HP300 全般的に身体能力が高いがAGIが一番か。スキルに神速と言うのがある。これのせいか。戦士型にするか、斥候型にするか、迷いどころ。まあ、脳筋タイプと言っていい。魔法属性は土、水、緑。


 上谷真悟 ・・・ 15歳 MP200 HP100 AGIが高く風属性に親和性が高そうだ。風の申し子というのがある。 魔法属性は風と火。まあ、普通な感じだな。スキルはない。


 よっしゃ。3人パーティにしたらバランスがいいかもな。武器は相性で見てからだけど、上谷は弓がいいかもしれないな。


 座学の最終日、俺は3人の後ろから【神眼】で視て・・彼らのステータスを確認した。


 そして俺は彼らに声をかけた。

 地獄の特訓の始まりである。(彼らにとっては)

 とにかく体づくりをさせつつ武術を一通り教えて彼らのあった得物を選定。その後はそれを伸ばす。魔法は俺が徹底して教える。


「宇佐見殿、私も市井に下りるとはいえ、若者の役に立つなら協力は惜しみません。」

 田村さんマジ神様!いろいろ頼っちゃおう。医学の本も書いてもらっている。

 薬師ギルドにも今通い始めた。調合とかを教わっている。

 その合間にこっちに顔を出してもらった。

 任せるところは任せて俺はソロの冒険者活動、自身の訓練、アーリアの護衛にと、時間の許す限り飛び回る。護衛は気配を遮断し、隠蔽の魔法で姿を隠し見守る役。忍者だな。忍者と呼ぼう。


 そうして初めて俺はアーリアが多忙な毎日を送っていることに気づく。

 王女としての責務は政治全般に及び、外交、貴族との折衝、国民への施策。”邪王”対策。王と二人で対応することもあったり、会議や面談など分刻みのスケジュールだ。

 俺と話に来る時間はかなり無理を通して絞り出したのだと、そう思った。


「この頃、こうした時間だけではなく背後になんだか安心する気配を感じて嬉しいです。」

 にこにことするアーリアに俺は少し頭を抱えた。気配漏れてるって話じゃねーか!

「そうか。少しは役に立っているか?」

 その気持ちは奥に秘めてポンポンとなだめるように軽く頭を叩く。

「もちろんです!本当はアキラ様に“彷徨い人”の訓練をしていただいてはいけないのにそれもお願いしているのです。いくら感謝してもし足りないほどです!」

 アーリアは思いつめるタイプなのかもと思った。もっと気を抜く必要があるんじゃないかな。

「ああ、いいのいいの。俺がやりたくてやっているから。でもありがと。嬉しいぜ?」

 にこにこと笑ってアーリアの話を聞く。輝く笑顔になると眼福だ。俺は得している。


 3人組はなんとか初級冒険者にはなれそうだと判断し、外に出ていくことにした。

 幸い王都のそばの森は初級に認定され解放されている。

 ギルドに登録させて、初級も初級、薬草の採取をさせることにした。

 カディスと俺と田村さんが付く。

 あとからやってきた”彷徨い人”の訓練はフリネリアに任せた。

 ようやっと実戦だ。

 迷宮への挑戦をするつもりだから、この森くらいで音をあげるようでは話にならない。

 安全にレベリングをするつもりだ。

 俺が唇を吊り上げたら3人が青くなった。


 お前ら、あとで覚悟しろよ?


 そうして森に分け入って森の歩き方講座をカディスから、薬草の特徴を田村さんから、俺から魔物の気配の感じ方を教えた。


 一人に付き、一匹、とりあえずの洗礼。

 さて、3人は魔物を倒し続けることが、出来るだろうか?

 田村さんみたいにけろっとしているだろうか?

 俺よりダメージを受けるだろうか?


 最初の獲物、Eランク相当の魔物を発見。最初は上谷君だ。ギルド登録ネームはシン。しんちゃんと呼ぶと嫌がるので呼んでいる。

「しんちゃん。こっち。あれ、弓で射ぬいて欲しい。」

 嫌な顔したが素直に言うことは聞くんだよな。

「はいっ」

 弓をつがえ、引き絞って撃った。ひゅっと軽い風切音をさせて弓矢が魔物を射抜いた。

 即死だ。


「よくやったなあ。合格」


 バンと背中を叩いた。顔は茫然としている。カディスが飛んでいって解体した。それを上谷に渡した。血の匂いが、した。

 受け取った上谷は陰で吐いていた。が、しばらくすると青い顔ながら黙って薬草の採取に戻った。

(俺の初回より大分いいかもしれないな。何がいいとは言えないんだけどなあ)

 新垣はガッキ―。嫌がったが俺が通した。”ユウ”は別にいるからだ。

 彼は初級魔法”ストーンバレット”で倒した。素材の痛みがひどくなるやり方だった、と俺は反省した。水にすればよかったか。彼も青い顔をしていた。

 今井は素直にハジメ。彼は剣で切りつけて、あっけなく魔物は絶命した。

 初めは気分の悪そうな顔をしていたが飲み込んだようだった。


 とにもかくにも魔物を倒す洗礼を3人は無事済ませたのだった。

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