15

「そう、その保育園のことなんだけどさ、翠君」

博斗がうって変わって真面目な顔で聞いた。


「はい?」

「もうじき、君のところでお世話になるから、よろしくな」

「よろしくって…なにがです?」


「だからぁ…。お、よせ、引っ張るなって、まだ早い…」

博斗は、自分の足元を見下ろした。


つられて翠達もいっせいに下を見る。

快治だけは、とても楽しそうに笑いをこらえている。


サクランボの飾りがついたバンドで髪の毛をちょこんと束ねた、三歳か四歳ぐらいの女の子が、博斗のジーンズの裾をぐいぐいと引っ張っている。


「母さんと一緒にいろって言っただろう? しょうがないなあ」

博斗はそう言うと、ひょいとその子を抱えて、肩に乗せた。


きゃっきゃっとうれしそうにその子が笑って言った。

「ぱあぱぁ」


「!!!」

遥達は硬直した。


後ろのほうで、快治が机を叩いて笑っている。


「あ、あの…」

こういうときは自分の役目なのだと思い、遥は、どきどきしながら聞いてみた。

「も、もも、もももももも、もしかして…そ、その子…?」


「え? …はは、はははは。そうだよ」

博斗は子どものほっぺたをぷにぷにつまんだ。

「紹介するよ。俺の、子ども…えっと、娘だ。三才」


生徒会室がひっくり返った。

「ええーーーーーーっ!」


「だ、だだ、だれ、誰、誰です? その…その子の、母親は?」

あの由布でさえどもっている。


「母親は、私です」

博斗の後ろから声がした。

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