13

五人は、見るものすべてが懐かしいという顔で校舎に入った。


「今日は、同窓会なのですか?」

「うん。あたしが理事長先生から聞いた話では、ね」


「残念だね。僕たちだけの同窓会なんて」

「博斗先生とひかり先生は、いないんですものね」

と、翠がつぶやいた。


「稲穂もいなくなっちゃった。せっかく、シータじゃなくて稲穂になれたのにね」

五人は沈んで廊下を歩いた。


「燕は、信じてるな」

と、やにわに燕が言った。

「博斗は、約束破ったことないもの。ちゃんと、帰ってくると思う。帰ってくるって、約束したんだから」

「あたしだって、そう信じたいわよ。でも、もう五年も経つのに、なんにも連絡ないもの」


遥は、生徒会室のドアを開いた。

懐かしい空気が、飛びこんでくる。

目を閉じれば、そこに、あのときの自分達が、いるように思える。


会長席に、快治が座っていた。


遥は驚いた。

なんだか、昔よりも若くなったように見える。

きっと、背負っていた重荷が取れたからなんだと遥は思った。


「お帰り。遅かったな」

「理事長先生!」


快治は立ち上がり、一人一人を軽く抱擁していった。


「理事長先生。どうして、今日になって唐突に同窓会をやろうという話になったのですか?」

由布が聞いた。


「ん? なあに、六年前の今日、君達は選挙で当選して新しい生徒会役員になった、その記念すべき日だからであり、また、セルジナ内戦が休戦になり、君達を呼び戻せるようになったからでもあり、それにもう一つ大きな理由があるのだが、まあ、その前に、いや、これも関係するんだが、私のことを言っておかねばなるまい」

「先生のこと?」


快治はうなずいた。

「私は、もう理事長をやめるんだよ。来年からは、しがない用務員の仕事をさせてもらうつもりだ。私も、上から学園を見るのはもう疲れた。生徒達と同じ視線から学園を見てみたいと思ってな」


「じゃあ、理事長が変わるんですか? でもここの理事長って、代々、先生の家系だったんでしょう?」


「新しい理事長も似たようなものだから問題ない。私なんぞよりずっといい理事長になるだろうし、陽光学園をしっかりと継いでいってくれると確信している」


「うーん。僕らの母校だからねえ。ちゃんとした人に理事長やってほしいなあ。ちゃんと、うちらしさがよくわかってる人に」


「それは、心配ない。折り紙付きだよ」

理事長は必死に笑いをこらえているようだった。


ちょうどそのとき、トトンとドアをノックする音がした。


「噂をすれば。新しい理事長が来たようだ」

快治は立ち上がり、意味ありげに五人を眺めると、ノブを回した。

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