12
ひかりは博斗をまっすぐ見た。
自分がするべきことはわかっていた。
ずっとわかっていた。
いままさにシータの直上に矛を構えたマヌに、ひかりは厳しく制止の声をかけた。
「待ちなさい」
マヌは矛の向きを変えた。
斜めに傾け、先端をひかりに向けた。
「なんのつもりだイシス…? お前は知識にこそ優れ、強さはこのシータにさえ及ばん。身をもってそれがわかったはずだ」
マヌの全身からおびただしい量の霊気が吹き出し、舐めるようにひかりを包んだ。
「ほんらいならば、私に一度とて逆らった以上、許さんところだが…ピラコチャもホルスも、このシータもいなくなるいま、私には新しい部下が必要だ。最後にもう一度、選択の機会をやってもよい」
「いいえ」
ひかりは即座に冷たく言い放った。
マヌが憤然と息を吸ったのがわかった。
ひかりは、ゆっくりと、淡々と、自らが言うべき言葉を続けた。
「私はあなたを選びません。私達が築いた恐怖の帝国は、もう二度と甦ってはならないのです。己の利権のためにのみ力を奮う傲慢、生命に価値を見い出さない冒涜、人間の心を道具として軽々しく使ってしまった過ち。それらすべてはただされなければならないのです」
「おかしなことを言う。地上の人間達も同じことではないか。それが過ちというのなら地上文明と我らが文明はどちらも過っている立場において同じ。そして、意志力を道具として使っているお前達も同じこと」
「そうでしょう。彼らも過ちの道を歩んでいるのかもしれません。しかし、彼らは現在に生きています。彼らの現在を奪う権利はあなたにはない! 彼らに意志力の使い方を伝えたのは私。私はもとよりすべてを負う覚悟。そして私は、このとき、この一瞬のために一万年のときを超え、あの人を愛してきたのです」
マヌは手を震わせた。
震えが矛に伝わり、矛につけられた飾りがチリチリと鳴った。
「愚か者が」
マヌは地面でうめいているシータを無視して、ひかりに近づいてきた。
「愚かなのはあなたです。あなたを滅ぼすために、終わらせることの出来なかった時代を終わらせるために、それだけのために私はいままで生きてきたのです。私は、そのために、私の信じている力を育んできたのです」
マヌが近づいてきても、ひかりは戦う構えすら見せず、真っ直ぐに立ったままだった。
「私を殺したければ殺しなさい。私はあなたに殺されるために生きてきたも同じ」
マヌは憎悪に満ちた目でひかりを睨むと、矛をほぼ水平に構えた。
「いい覚悟だ」
「ただし私を殺せば、それはあなたの死をも意味するのです」
ひかりは、静かに笑っていた。
「それ以上の戯れ言許さぬぞ。望みどおり死ね」
マヌの悪意のこもった矛が、ジャクッと飾りの音を散らして突き出された。
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