10
ひかりは、震える膝を叩き立ち上がった。
そのとき、ひかりが思ってもいなかった事が起きた。
それまでまさに人形よろしくぴくりとも動かなかったシータの腕が驚くべき速さで動き、ちょうど横を通り抜けようとしていたマヌの足首を払った。
見ればシータの瞳に黒々とした生気が戻り、ひかりに向かって笑いかけている―確かにそうひかりには見えた。
なにかを訴えているような、『待たせた』といいたげなそんな瞳。
マヌもまったく不意をつかれたらしく、完全にバランスを失い、前のめりによろめいた。
ジャクジャクと矛が床を突いて音を立てる。
シータはグラムドリングの柄をつかむと、がばと上半身を起こした博斗に投げた。
「受け取れっ!」
「…言いたいことはたくさんあるけどなぁ!」
博斗は、グラムドリングを再び掌中に収めると、すでに体勢を立て直したマヌに答えながら突進した。
「いま言いたいことは一つだけだ!」
白刃がマヌの頭上から軌跡を描いた。
「…くたばれっ!」
「くたばるのは貴様のほうだわ!」
マヌが矛を跳ね上げた。
老人とは信じられない俊敏な反応と力で、博斗の白刃を食い止めた。
白い炎とマヌの矛の接点から悲鳴があがった。
マヌは矛を使ってグラムドリングの刃を絡めた。
博斗は刃につられるようにして姿勢を崩し、よろめく。
グラムドリングに肉体的な疲労は関係がなく、いまの一撃は博斗が渾身の力で放った一撃であるはずで、それがこうもやすやすと食い止められるとは…予期していたこととはいえ、ひかりは戦慄をおぼえた。
マヌとの戦いは、やはり長期戦ではない。
一瞬の、ただ一撃に委ねるしかない。
ひかりは、ようやく歩き始めた。
このままでは、その一度の機会には、力が足りない。
このままでは…。
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