「入り口です」

ひかりが目線で示したのは、いま博斗達がいるところから数メートル下の小さな谷間だった。


草葉の陰に、青い色がちらちらと見え隠れしている。二人。


「随分と人数が少ないですね」

ひかりがささやいた。

「あの戦闘員達の任務は、私達の阻止ではなく、無関係なものがはずみで迷い込まないようにする、それだけのことのようです。ピラコチャの行動といい、ひょっとしたら、戦闘員はこの二人以外、もう、存在しないのかもしれません」


「それで? あの青いのどうするんです?」

ひかりは、やや笑った。

「なかに入れば、あとは構う必要はないでしょう。軽く攻撃して気絶させるだけでいいと思います」


「よし。やってみよう」

博斗とひかりは、充分に頭を下げた姿勢のまま両手を下げ、四つんばいに近い中腰で、ぶよぶよとした葉の積もる地面を下った。


二人の戦闘員は、歩哨らしく、二人で違う方向を向き、死角を減らすようにしていた。

だが、人間の注意力の常として、頭上への警戒は、ややおろそかになっているようだった。


博斗とひかりは、戦闘員の指の一本一本まで確かに見分けられる直線距離まで、気付かれずに接近することに成功した。


博斗は、寒さのためだと自分ではそう思いたい手の震えにやや動揺しつつ、グラムドリングを抜いた。

呼吸を整え、刺すような冷気を、意志統一を高めるための道具と解釈して、間近に見える二人の戦闘員に狙いを定めた。


地面が揺れた。

ゴ、ゴ、ゴと断続的な音がした。

博斗とひかりは思わず膝をついた。

「なにが起きたっ?」

「これは…ピラコチャの仕業では?」


なにが起きたかと、戦闘員達が辺りを見回し、上を見上げた。

それで、苦い顔をしている博斗と、ばったり眼が合った。


戦闘員がムーの言葉でなにかを叫び、もう一人を呼んだ。


「こうなれば、強行突破を!」

ひかりが動いた。

茂みを軽やかに飛び越えると、カモシカの動きそのままに、斜面に沿って、ただし着地はせずに、舞い降りた。


博斗は、すぐにそのあとを追って、ひかりよりは乱暴に、ぶんと飛び降りた。


ひかりは、戦闘員が反応して行動するよりも早く、みぞおちに手を当て、バシンと激しい音とともに吹き飛ばした。


そのときようやく博斗が、もう一人の戦闘員の横に着地し、グラムドリングを振り上げた。


だが博斗はそこで逡巡した。

博斗は腕を振り上げてその姿勢で二秒ほど止まっていた。

戦闘員が咄嗟の行動に移るには充分な時間だった。


博斗がはっとしたときには、戦闘員はきびすを返して逃げようとしていた。

だが、逃亡するために振り向いた戦闘員は、ギャッと悲鳴を上げると、へなへなと腰を崩し、地面にのびた。

倒れた戦闘員の向こう側に、ひかりが立っていた。

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