博斗とひかりは、遥達と別れてから、お互いに言葉を交わすこともなく、黙々と歩いていた。


皮肉なことに、ピラコチャの手によって高藻山から一直線に新たな道が敷かれていた。

崩れ乱れ溶け砕けたコンクリート塊、アスファルト片、金属のかけら、ガラス。

足場は隆起し陥没し、ひどいものだった。


博斗とひかりは、まだ朝靄でかすんで見える参道に着いた。

ここから上に向かう道も、すでにピラコチャに荒らされたあとだ。


二人は参道を歩いた。

「妙だと思わないか、ひかりさん」

登山道を歩きながら、博斗はひかりに問いかけた。


「誰も道を妨げないことですか?」


ひかりが、自分の考えている通りのことを返してきたので、博斗はややどきりとした。

ひかりもおかしいと思っているのだ。


「戦闘員の一人も出てこない。これはどういうわけだ?」


「マヌは遊んでいるのかもしれませんよ。パンドラキーを手にいれた余裕で。私達二人など、宮殿に入られたところで痛くも痒くもない、そう思っているのかもしれません」


「ふん。軽くみられたもんだ」

博斗は悪態を道に吐き捨てた。


「あるいは、戦闘員もすでに失っているか、あるいは、戦闘員を束にしたよりも強力な誰かをこの先に配置しているか」


「誰か…」

博斗は顔を渋らせた。


「あるいは、その両方であるかもしれませんね。『彼女』をぶつければ充分だ、と、そう考えている。おそらくそれがもっともマヌの考えに近いのでしょう」

「なら、そんなうぬぼれた考えをうち崩すまでだ」


ひかりが、ふと立ち止まったので、博斗は、自分の言葉に応じたのかと思ったが、そういうわけではなかった。


ひかりは道を外れた。

苔の茂ったゴツゴツした岩と大樹に手を突き、腰を低くして下の斜面に足を踏み出した。


博斗があとに続こうとすると、ひかりが、頭を下げるようにジェスチャーした。

博斗は眼でうなずき、葉で身体を隠すようにしながら斜面を少しづつ下がった。


ひかりが、博斗を手招きした。


博斗はひかりと膝を寄せあうようにして斜面の下を覗きこんだ。

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