12

爆発を見下ろしながら、レッドとイエローが静かに着地した。


「やった。プロフェッサー・ホルスを…。ムーの幹部を倒した…」

レッドは疲れきっていながらもほっとしたような声で言った。


「そうだ、三人を助けないと…」

そう言って歩き出そうとしたレッドに、イエローが倒れかかった。

「やだなあ、イエローってば。もう勝ったんだから、しっかり…」


レッドは絶句した。

イエローの腹部に、二本の捻じ曲がった氷柱が突き刺さっている。


オオダコムーの肢だった氷柱を受け止めたまま、イエローはよろよろとよろめき、地面に倒れた。

その衝撃で氷柱が砕け散り、同時にイエローの変身も解け、うめきながら翠が横たわっているだけになった。


突如けたたましい笑い声が響いた。

「さすがスクールファイブ! さすがイシス! さすがオシリス! この僕の肢をすべて奪い、体皮まで引き剥がすとは! しかし、しょせんこの僕の敵ではなかった!」


煙が晴れた。

そしてそこには、悠然と立つオオダコムーの姿があった。


しかしその姿はいままでのものとは異なっていた。

鈍い色であったその表面はフォークかスプーンのように鮮やかに光を照り返す銀箔色で、赤い瞳があった部分には、同じく赤く光るつやつやとした球体が埋めこまれていた。


頭部は禿げているようにつるつるで、何箇所か、つまみ程度の小さな突起が飛び出していた。

突起の先端からは、しゅうしゅうと蒸気が噴き出している。


「こ、これがホルスのほんとうの正体か! 機械の体だったのかっ!」


「その通りです! 僕はあらゆる怪人のノウハウを注ぎこんで全身を機械化した最強の怪人なのです。軟体化はこの頭部を下半身に収納することにより成せる技!」


「最強だろうがなんだろうが、あんたにはもう肢がないわ! そんな体で戦うなんてお笑いよ!」


「ほう…」

オオダコムーが、まさに機械的な動きをした。

腰から上の球体部が直角にきゅるっとこちらに回転し、そして、その頬に当たる位置から、腕のような太い突起が突き出した。


「あれは…っ!?」


「…蛸には漏斗というものもあるのですよ!」


その突起の先端から、真っ黒な液体が噴き出した。

勢いよく飛び出したその黒い液体が、ひかりの全身にかかった。


「うっ…?」

ひかりは水圧でよろめき倒れた。


「ひかりさん!」

ひかりの体を覆っている黒い汁は、墨のようだ。

だが、指先で触れるとネバネバとして、かなり力を入れなければ指が剥がれなかった。

「な、なんだこれは…?」


「カーカカカカカ! しばらく地面に貼りついているがいい。スクールファイブが先…」


「あたしを甘く見るなっ!!」

レッドは、オオダコムーの注意が逸れた隙に、空中でレッドアローに飛び乗っていた。

そして、座席に両足を乗せ、サーフィンのようにレッドアローごとオオダコムーめがけて滑り降りた。


レッドアローの前輪が、オオダコムーに接近した。

「これでおしまいよ!」


「おしまいは、お前のほうですよ!」

オオダコムーの突き出した漏斗が、突如不気味なうなり声を上げて猛烈な回転を始めた。

「ファンネルドリル!」


漏斗はドリル状に回転しながら、真っ正面からレッドアローの前輪をとらえ、ドーナツのようにやすやすと引き裂いた。

ゴムの焦げる嫌な臭いがした。


レッドアローは自重と落下の勢いのままオオダコムーに衝突したが、オオダコムーは構わずにそのままレッドアローを串刺しにすると、上半身を振って、レッドもろとも投げ捨てた。


レッドアローは横倒しになり地面を滑った。

したたかに地面に身を打ちつけたレッドは、なんとか仲間たち四人の倒れているところまで歩いていったが、そこでぐらりと体を傾かせた。


「もう、駄目…」

変身が解け、遥は倒れた。

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