2
先に目を覚ましたのはオシリスだった。
というより、オシリスは熟睡はしなかった。
あぐらを組み、わずかでも変わった気配があれば目を覚ますことが出来るようにしながら、目を閉じてうつらうつらしているだけだった。
傍らでは、オシリスに寄りかかるようにして、イシスが静かな寝息を立てていた。
オシリスは横目でその表情を見ながら改めて思った。
美しい人だ。
しかし、寂しい人だ。
いつか、この人が笑顔を浮かべることが出来るような日が、来るだろうか?
オシリスは、イシスの体を動かさないように気を付けながら、静かに立ちあがった。
「オシリス?」
声がして、オシリスは見下ろした。
イシスが起きている。
「どうしても、戦うのですか?」
「ああ。それが私の、信念だ」
「私は…私は、どうすればいいのです?」
オシリスは、ゆっくりとつぶやいた。
「四人の幹部から一人が抜けることは、単純な四引く一の計算にはならない。四引く二、四引く三、あるいはそれ以上の決定打になりうる」
イシスが息を呑む音がはっきりと聞こえた。
「あなたは…」
イシスの声は嗄れていた。
「…あなたは、私に総帥を裏切れというのですか!?」
「…無理強いもなにもしない。ただ、私は、あなたを待っている。あなたがいれば、マヌ総帥を倒せる可能性が高くなる」
「不可能です」
イシスは即座に言い返した。
「仮に私が助力したとしても、マヌを倒すことは、いまのあなたでは無理です」
「あなたが言うのなら、そうかもしれない。だが、それであきらめるわけにもいかない」
イシスは、うなだれた。オシリスの信念は堅い。
「さあ、そんな話は後だ。いまはここから出ることを考えよう」
オシリスは剣を構えた。
剣が青白く輝き、ぱちぱちと火花を散らした。
イシスは、剣の様子がおかしいことに気付いたが、集中しているオシリスは気付いていないようだ。
「いくぞ!」
オシリスが、怒れる白い輝きを剣から一直線に放つと、イシスはオシリスに身を寄せ、二人の頭上を覆うような大きな傘をイメージした力場を生んだ。
オシリスの放った白刃は、積み上がった石を吹き飛ばし、通路を目前に生み出した。
通路の天井にあたる石は、自然の法則に従い、落下して再び道を塞ごうとしたがったが、イシスの傘がそのはたらきを食い止めた。
「いまだ!」
二人が通路を抜けたところでイシスは力を抜き、力の傘に支えられかろうじて落下を抑えられてた通路の天井は、音を立てて崩れた。
ほっと安堵の息をついて後ろを顧みたイシスに、オシリスが笑いかけた。
「いつまでも笑ってはいられない。ここは元々あなたの塔だった場所だ。いまの音で、誰かしらすぐにやってくるだろう」
イシスはうなずき、顔を上げて、夜の黒から朝の青に色を変えつつある辺りの様子をうかがった。
「近くに歩哨がいるはずです。私を人質にしてください。そうして、あなた達の陣地まで逃げるのです」
オシリスはつと頭を屈めると、イシスの頬に自分の頬を合わせた。
「いや。ここで、別れよう。私は私のところに戻る」
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