7
二人が柱の並ぶコンコースを抜け、朝日で輝く駅前の石畳を視界に入れたそのとき、ほんとうの混乱が起こった。
ガタのきた自転車のブレーキを思いきりかけたときのような、筆舌に尽くし難い音が、耳を聾した。
音と同時に、コンコースのなかにあるガラスというガラスが一瞬にしてバラバラに砕け散った。
床に敷き詰められていたきれいな色のタイルが、一斉に空中に跳ね上がった。
外では、駅ビルの窓という窓がすべて粉砕し、テナントが出しているアクリルの看板も瞬時にして吹き飛んだ。
ガラスとアクリルの色とりどりの破片が空から降ってきた。
鋭利な破片は、下にいた通行人達に浅い切り傷を無数に与えた。
遥と翠は、耳を押さえながら立ち上がった。
耳から脳髄まで一直線に針をぶつんと突き立てられたんじゃないかと思った。
「ひとまず、怪我人をなんとかしないといけませんわ」
翠は、近くの床にうずくまっている男に近づこうとした。
しかし、遥の厳しい言葉が翠を制止した。
「翠。怪我人は放っておくしかないわ」
「なんですって?」
翠は遥を睨みつけた。
「怪人を止められるのはあたし達だけなのよ? もしあたし達がここでグズグズしてると、もっとたくさんの怪我人が出るのよ?」
「み、見損ないましたわ!」
翠は立ち上がると、遥に平手を繰り出した。
ところが、遥のほうが一寸速く翠の頬をひっぱたいた。
「い、痛いですわっ! この…」
翠はお返しに今度こそ一発やり返そうと構えたが、そこで動きを止めてしまった。
「遥さん…。泣いてらっしゃるの?」
目を丸くした翠の襟を、遥はぐいと引き上げた。
「行くのよ翠! こんな決断はつらいけど、決断しないのはもっとつらいのよ!」
翠は、遥と手を取り合ってうなずいた。
「…悔しいですけれど、やっぱり遥さんは、わたくし達のリーダーだと思いますわ」
「…ん。ありがと、翠。…さ! こんなことをする怪人は、絶対に許せないわ。行くわよ!」
二人はビルを出て、駅前の広場に歩みを進めた。
「遥さん。怪人はもう向こうに行ってしまったようですわ」
「どうしてわかるの?」
「見ればわかりますわ。とってもわかりやすい怪人ですこと」
「…なるほど」
駅前広場から続く、陽鉄の高架沿いの道に、キラキラと輝くガラスが点々と続いていた。
遥と翠は、ガラス片の道しるべをたどって、道を走り出した。
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