7
遥は、自分をつかんでいる望の手が震えていることに気付いて、はっとした。
こういうときにしっかりしないで、いつしっかりするんだ、遥!?
遥は望の手を引っ張って後退すると、もういっぽうの手で廊下へのドアを勢いよく開けた。
「あいてっ!」
さっきの青年が、ドアに跳ねとばされて額のあたりを押さえてかがんでいる。
「あ、あなた、さっきの!」
青年がしかめっつらを上げた。
そして遥の後ろを見て目を丸くした。
「ツ、ツチノコ!? いいところで会いました…!」
遥は青年の尻を蹴って向こうに追いやった。
「こんなときにそんなこと言ってないでよ! さっさと逃げないと喰われるわ、望さん、この人を連れてって!」
望は、遥にうなずいた。
「無茶はしないで?」
望は、まだなにか騒いでいる青年を引きずるようにして、廊下の先にある階段のほうに去っていった。
ありがとう、望さん。
なにも質問しない望の気遣いがうれしい。
その気持ちに応えるには、自分が出来ることをきっちりとやるしかない。
望達が行ってしまうと、遥は、意を決して大蛇に飛びかかった。
ざらっとしたようなぬるっとしたような手触りがあり、頭を押さえられた大蛇はうねって逃げようとした。
遥はかろうじて大蛇を部屋の中に押し戻すと、後ろ手にすかさずドアを閉めた。
「あんたがどうして蛇になったのか、調べないとね!」
遥は不適な笑みを浮かべ、腕章に手をかけた。
赤い光の奔流が腕章から噴き出して全身を覆い、遥はスクールレッドになった。
変身を終えるやいなやレッドは両手にリボンを取り出した。
リボンは螺旋を描いてレッドの手から吹き出し、大蛇の首と胴にあっという間に絡みつく。
すっかりリボンで巻かれてミイラのようになっても、大蛇は太い胴体で床を叩いて力強く抵抗したが、レッドが飛びかかって腕で締め上げると、じきに静かになった。
「レッドアローッ!」
空に叫んでしばらく待つと、街並みの向こうに赤い斑点のようなレッドアローの輝きが現れ、レッドの待つ窓の外にぴったり横づけして停止した。
「この、おっきいのを、桜のところに運んでくれる?」
レッドは、よいしょと大蛇をレッドアローにくくりつけながら言い聞かせる。
レッドアローは返事の代わりにプッと小さく警笛を鳴らし飛び立った。
レッドアローが行ってしまうと、遥は変身を解き、部屋を出て望を探しにいった。
すぐに遥は、階段を上ってきた望とはちあわせた。
「望さん! …あれ? あの人は?」
望はゆっくりと首を横に振って、肩をすくめた。
「もういっちゃったわよ。高藻山に戻るって言って」
「高藻山?」
「…遥も、行くんじゃないの?」
遥は、こくんとうなずいた。
「もちろん! これは素人が手出しできる事件じゃないわ。あたしがいかないと、もっと面倒が起きそうな気がする」
望の手が遥の肩に置かれた。
「遥、いい眼になってきたわよ? こっちのほうは、なんとかしておくから、いってらっしゃい?」
望にこうして諭されると、遥は、自分がまだずいぶんと子どものような気がしてくる。
望と自分の間には年齢以上の大きな差があるように、思えてならない。
いったいあたしに足りないものはなんだろう、と、日ごろからの疑問がまた鎌首をもたげてくる。
考えていても仕方がない。
少なくとも望さんは、自分がなにを成すべきかについて悩んだりはしない。
遥は、はにかんだ笑顔を望に返した。
遥は、自分がこの謎を暴いて事件を解決してやろうという気になっていた。
あたし一人の力で、やってみせる。
あたし一人でも、出来る。
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