5
「で、どうして河原に来なくちゃいけないんだ?」
博斗はあきれて空を見上げた。
プファーンと警笛を鳴らして、陽光電鉄の電車が鉄橋を渡っていく。
夕焼けの河原。
実にこう、スポ根ドラマにありそうなシチュエーションだ。
「果たし合いは、河原でするもんと決まっとるがな」
初雁は胸をはって言った。
「おかしな奴だな。由布、ほんとにこんなのと勝負するのか?」
博斗が聞いても、由布はこわばった表情のまま言った。
「誤解があるのだと思います。でも、説明するためには、まず剣の勝負で勝つ必要があると思います。剣士というのはそういうものです」
博斗は、竹刀を袋から抜いた初雁を見た。
思いこみ激しそうというか、なんというか、遥と翠を足して二で割ったような奴だな。あ、妙にシチュエーションにこだわるところなんか、桜も入っているかもしれない。
初雁は、取り出した竹刀を一振り、由布に投げてよこした。
由布はその竹刀を手に取った。
柄が紺色に変色している。よく使いこまれている証拠だ。
「それ使い」
そう初雁が言ったので、由布はためらわずに竹刀を構えた。
初雁はもう一振り竹刀を袋から抜いた。
「よっしゃ、ほいだばいくで!」
そう言って竹刀を構えたとたん、それまでなんだか気の抜けたようだった初雁の目の色が変わった。
眼光も鋭く由布を睨むと、地面を蹴って一気に突っ込んできた。
「奥義、消える魔剣!」
博斗は目を疑った。
確かに、いましがたまで握られていたはずの竹刀が、初雁の手から消えた。
初雁は何も持っていない両手を由布に振り下ろす。
由布は体を横に倒してその手を逃れた。
足を踏ん張り、初雁は左手を伸ばした。
すると、頭上からまっすぐに降りてきた竹刀の柄が手のなかに収まり、真横から由布の腰に向けて竹刀を払った。
「なーにが魔剣だ…。ただ上に投げただけじゃないか…」
博斗はあきれた。ひょっとしたら初雁ってとても弱いんじゃないのか?
だが、その考えはすぐに否定された。
竹刀を取り戻した初雁は、矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、由布に暇を与えない。
由布は、博斗と剣を交えていたときとは明らかに違う険しい表情で、初雁の攻撃をかろうじて受け流し、少しずつ後退していった。
由布の足が、土手のいちばん端にかかった。
ここからコンクリートの護岸が一メートルほど続いた下は水面だ。
「逃げ場はない。これで決まりだぎゃーっ!」
初雁は大きく跳んで竹刀を振り下ろした。
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