7
次の日の放課後。
遥達は、かねてからプランニングしていた新必殺技「スクールスティック」を実現するために、今日は河原で特訓すると言って出ていった。
教員室の博斗は、思案していた。
シータが生きていた。
それに驚く感情と、それが信じられないという思いと、いったいどうすればいいのかという疑問と、やはり生きていたという壮快感が、複雑に入り乱れて心を揺らしていた。
なかでも壮快感は戦慄すべきものだった。
敵の中でも特に警戒すべき力の持ち主だ。
その復活をどうして歓迎していいはずがない。
理性はそう訴えていた。
だが、それとは別のところにあるなにかが、シータの復活を歓迎していることに博斗は気付いていた。
どうかしている。敵だった奴が味方になるなんてのは十年以上前の少年ジャンプだけの話だ。
シータが博斗達に手を貸すはずがない。
だがそうすると、白百合仮面はどう説明する?
白百合仮面は、いままで何度もスクールファイブを助けてきたじゃないか?
それに、昨日のあの行動は?
あれは、博斗にはどう見てもスクールファイブを「鍛えている」ようにしか見えなかった。
では、シータがスクールファイブに味方するようになっていると仮定したら、いったいその動機は?
確かに博斗とシータが、わずかとはいえ、文明論をめぐって言葉を交わしたことがあるのは事実だが、それだけでシータがムーを捨てるとは思えない。
いや。
シータは、怪人を自ら斬ったことがあった。
あの頃からなにか変化があったのか?
博斗は手を止めた。
いつの間にか、プリントに、意味をなさない線が書き殴られていた。
無意識に、ボールペンを持つ手が動いていたらしい。
博斗はペンを置き、教員室を出た。
考えに行き詰まったときには、違う空気を吸ってみるのもいい。
廊下に出ながらも博斗は考えていた。
もうすこしで出口が見えそうだ。
白百合仮面の存在を考えてみる。
シータはなぜ白百合仮面だったのか?
ほんとうのところは本人のみ知るが、しかし、たとえばこんな仮説が成り立つ。
シータが、俺達に手を貸そうとなんらかの理由でそう思った。
だが、シータの姿のままでは俺達が信用するはずもない。
そこで、仮の姿を使った…。
考えられなくはない。
問答のあと、シータがとった、怪人を斬り殺すという行動をあわせれば、だ。
しかし、ストレートではない。
仮面を外せばいい話だ。
仮面を外し、あの黒づくめの格好をどうにかすれば、それがシータだとは誰もわからなかったはずだ。
仮面を外すどころか、さらにもう一枚新しい仮面を被って姿を現したとはいったいどういうわけだ?
そして、いまになってその一番上の一枚をまた捨てたわけは?
さっぱりわからない。敵としてみるべきなのか? 味方としてみるべきなのか?
博斗は、ふと視線を感じた。
廊下の向こうに誰かが立っていて、博斗のことを見つめていたようだが、その誰かは、すぐに角を曲がって視界から姿を消してしまった。
博斗の心臓が早鐘のように響いた。
いまのは稲穂じゃないか?
昨日の想像が新しいファクターを取りこんで再び持ち上がってきた。
稲穂は強い「力」を持っていると理事長が言っていた。場合によっては遥達をも上回る、と。
稲穂は右手に包帯を巻いていた。火傷をしたと言っていたが、ほんとうのところはどうかよくわからない。
白百合仮面は建覚寺の戦いでピラコチャに右手をやられて負傷した。
昨日の戦いを見る限りでは、いまもその傷は癒えていない。
昨日、ここまでの段階で、博斗は一つの推論を導いた。
「白百合仮面の正体は、稲穂じゃないのか?」
突飛だがそれなりに筋が通っている。
ただ「動機」がわからなかった。
その推論に、新しい、決定的なファクターが追加された。
「白百合仮面はシータだった」
重なる部分を置きかえると、こういう推論が成り立つ…。
「シータの正体は、稲穂じゃないのか?」
博斗は手のひらで顔を覆った。うめき声が漏れた。
そんなはずはない!
だが。
博斗は顔から手を払った。
やるべきことは、一つ。
疑問は自ら確かめるまでだ。
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