15
茂みに逃げこんだ博斗は、すぐそばに別の人間のいる気配を感じた。
暗がりから現れた顔は、心から博斗を安心させた。
「ひかりさん…」
ひかりは、自分が見ている人物が信じられず、瞬きをした。
そして、瞬きをしても幻のように消えないことを知ると、涙交じりに言った。
「…よくご無事で」
「心配かけた。でも、俺は帰って来たよ」
博斗とひかりは、どちらが先というでもなく、それがごく自然なことだというように抱き合った。
博斗は左手でひかりの髪を撫ぜ、ひかりは、いまこのひとときぐらいは、私にも平安が許されるのではないかと想い、博斗の胸に身を委ねた。
「白百合仮面に助けられた」
博斗はささやいた。
「彼女は何者なんだろう。どこかで会ったことがあるような気がする」
「あの人が誰であれ、いまのところ私達の敵ではありません」
「そうだな。俺の手も、手当てしてもらった」
博斗は、いまは真っ赤に染まっている右手の白い布を示した。
「あの人がそんなことを…?」
「白百合仮面は、敵とか味方というところまで行ってないんじゃないのか? 俺には、あれだな、幼稚園なんかで、みんなでおしくらまんじゅうしてるなかに、一緒になって入りたいんだけど素直になれなくて指をくわえてみている、そんなふうに思えた」
「…その通りかもしれませんね」
ひかりは博斗から離れた。
平安のとき終わり。
自分のするべき事を忘れてはならない。
「博斗さん。この地面にクロスムーの十字架が埋まっています。それを取り除くか破壊してしまいたいのですが…」
「グラムドリングがあればよかったのに。…他に武器は?」
「これなら」
ひかりが取り出したのは北極1号だった。
博斗はひらめいた。
「この寒いときに北極1号を使うのはどうも気が進まないけど、いい考えがある。十字架はどのぐらいの深さに埋まっているかわかりますか?」
「おそらく二メートルぐらいだと思います」
「そうすると…」
博斗は数歩下がり、左手で北極1号を構え、角度を調節した。
「ま、いわゆる三角測量みたいなもんかな」
そして冷気を送った。
見る見る足元の地面が凍り付いていく。
「さ、ひかりさん、この氷を砕くんだ。そうすりゃ一緒に十字架も砕ける」
ひかりは心得たとうなずき、小さな白い光球を次々に放ち、凍りついた地面を粉砕していった。
不意に悲鳴のような音が聞こえ、ふっと心が開放的な気分になった。
ひかりは手を止めた。
博斗もうなずいた。
「破壊できたみたいだ。あとは、クロスムーとピラコチャだ」
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