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「さくら、おきて、おきて」
燕の声がして、桜は浅い眠りから引き戻された。
とても眠れるような気分でもなかったし、眠りたい気分でもなかったのだが、遥達にとにかく寝ていろと、ほとんど無理に毛布をかけられて眠らされてしまった。
そうなればどんなに気分が滅入っていようとも、必要とあらば最低限の睡眠をとってしまうという桜の習慣の勝ちだった。
桜は横の机に置いてあった白衣をまといながら遥達の元に行った。
「桜、見て。出来たわよ。これで、いいんでしょ?」
遥が、手のひらに、小さな飴玉を思わせる丸い結晶を五つ乗せていた。
どの結晶にも色はなく透けているが、わずかに白く濁っている。
「うん。ほんとうはこれがちゃんと分離されたものかどうかのチェック、それからもちろん色々としなきゃならないことはあるんだ。でも、いまはそれどころじゃない」
桜は、遥の手から、大切そうに五つの玉をつまみあげた。
「僕はもう充分睡眠をとった。みんなは眠ってほしい。僕はこれから、このコアを埋め込む作業をする。みんなは、夜明けまでゆっくり休んでほしい」
「でも…」
「駄目。手伝ってもらうときに決めた分担の通り。ここから先は僕以外には手が出せないんだよ。だから任せといて。みんなのおかげで睡眠とれたから、バッチリだから」
「わかりました」
由布がうなずき、遥達を押した。
「さあ、行きましょう」
「ち、ちょっと、由布」
「わたし達は、いま出来ることはすべてやったんですよ。あとわたし達に出来る最善のことは、桜さんの邪魔をしないこと」
「…わかった。桜、任せる。あたし達、待ってるからね」
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