「…でも、そしたら、なんにも持たないで怪人のところにいくの?」

顔を見合わせた五人のなかで、ぽつんと燕が言った。


由布がうなずいた。

「そうですね。誰か一人は、夜明け前に丸腰で彼らの前に姿を現す必要があるでしょう。そうしなければその時点ですべてが終わってしまいます」


「危険ですわね。パンドラキーを持ってこなかったことがバレたら」

「問題なのは、誰がのこのこと怪人のところに行くかよね」


しばらくして、遥が顔を上げた。

「決めた。あたしが行く」


「だ、だ、駄目ですわっ」

「どうしてっ?」

「それは…」

翠は逡巡して、そして頭に電球が点ったように目をぱちりとした。


「そ、そう、きっと一人で抜け駆けして博斗先生を助け出そうというつもりなのですわ」

「出来るものならそうしたいわよ。でも、いまのあたしの力じゃそれは無理」


「そ、それなら…」

「翠、なんか無理して理由、考えてるんじゃない?」

桜がほくそえんだ。


「な、なにを…!」

「翠さんはただ単に『行くな』と言いたいんですよ」

と由布。


翠は返事をしなかったが、その沈黙はイエスなのだろうと遥は思った。


「でも、誰かがはっきりとあいつらの前に姿を現して、せめて時間稼ぎをしないと、それだけで博斗先生は殺されちゃうかもしれないわ」


「それ以上の議論は必要ない」


それまで、座ったまま、眠っているか死んでいるかのように沈黙していた快治が、ゆっくりとしかしはっきりと言った。


「私が行く」


「理事長さん!」

ひかりが驚いて甲高い声を出した。


「丸腰になったところで支障がないのは私だけだ。私は戦うことが出来ないからだ」


「それは詭弁だよ。僕らだっていまは戦うことが出来ない。そういう意味でみんな同じさ」


「いや。君達にはするべきことがある。コスチュームはなんとしてもパワーアップさせる必要がある」

「それは、僕が…」


「いや。君達全員の力で成し遂げるのだ。言っている意味は、わかるはずだ」


遥は、はっとして強くうなずいた。

「桜、なにか手伝えることはある? あたし達も一緒に、何かをしたいの。自分の手でなんとかしたいの」


「そうか、そうだよね。うん。きっと、みんなに手伝ってもらったほうがうまくいく」


「わかったならば、すぐに行動に移るといい。交代で休憩をとり、夜が明けたときに睡眠不足だったということがないようにしたまえ」


快治はそう言い渡し、そして結んだ。

「いいな、瀬谷君と君達は一心同体であり、不可分なのだ。片方が敗れたとしても、もう片方がくじけなければ、希望は絶たれはしない」


快治は、急に老けこんだようになって椅子に戻った。

「さあ、行くんだ。私は、夜明けまでしばしの眠りにつかせてもらうよ」


「桜、実験室に行きましょ? あたし達の新しい力を、創り出すのよ」

「よし、わかった」


遥達はうなずきあうと、快治とひかりに小さく会釈して、われさきにと司令室を飛び出していった。

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